ドラマ・映画作品では、しばしばラブシーンが描かれることがある。特に昭和はそういった際どいシーンが多かったが、どの時代でも女優は作品と本気で向き合い、全身全霊で与えられた役柄に挑んでいた。
だからこそ、作品の中で艶めかしい色気を放つ女優たちは美しく芸術的に見えるのだ。そこで今回は、漫画実写化作品の中で、濃厚なラブシーンに挑んだ女優を見ていこうと思う。
■妖艶な花魁×極彩色の芸術的作品『さくらん』
2001年から『イブニング』に連載されていた安野モヨコさんの同名漫画を実写化した『さくらん』は、2007年に公開された映画。写真家の蜷川実花さんが初めてメガホンを取った作品で、蜷川氏が得意とする赤を基調とした極彩色の煌びやかな和の世界に、椎名林檎さんの音楽と“桜”、“金魚”がマッチする映像美が印象的な作品だ。
物語の舞台は江戸最大の遊郭、吉原。主人公は、8歳で吉原遊郭「玉菊屋」に売られた土屋アンナさん演じる“きよ葉”(禿時代は「とめき」、引込時代は「おりん」の名)である。器量の良いきよ葉は将来を見込まれて花魁・粧ひ(菅野美穂さん)の禿となって教育を受けるも、気が強く粗暴な上に女郎嫌いなため様々な問題を起こす。同作は、そんなきよ葉が「玉菊屋」を引っ張る花魁“日暮”になるまでの物語だ。
女郎の話ゆえ、同作は全体的に大人向けのシーンが多い。女郎たちはお風呂で当たり前のように上半身を露わにしており、胸のドアップなども差し込まれる。あまりにナチュラルな場面だが、かなり攻めていると言えるのではないだろうか。
一方、土屋さんをはじめ、菅野さんや花魁・高尾を演じた木村佳乃さんは、客との濃厚な絡みシーンに挑戦している。着物を着ていないわけではないが、目が覚めるようなビビットカラーの部屋の中で、光信(永瀬正敏さん)ら男性客に体を激しく求められ、甘い吐息を漏らす花魁たちは妖艶さが凄まじかった。
特に、上半身裸で客の上に跨った菅野さんと土屋さんが、障子の隙間から覗く禿にニヤリと笑みを見せるシーンはゾクッとする。露骨すぎる場面を見せずに耽美的な作品を描けるのは、蜷川監督ならではだろう。
■沢尻エリカさんの美しさが止まらない『ヘルタースケルター』
80年代から90年代に生々しい性描写と強烈な愛を織り混ぜた数々の名作を生み出し、多くの漫画家に影響を与えた鬼才・岡崎京子さんの同名漫画を実写化した2012年公開の『ヘルタースケルター』。監督は、『さくらん』同様、蜷川実花さんが務めた。
主人公は、全身のほぼすべてを整形してスーパーモデルになった“りりこ”こと比留駒はるこだ。誰もが羨む美貌を手に入れたりりこは、次第に全身整形の副作用に苦しみ始める。追い打ちをかけるように天然美人のこずえの登場や恋人の裏切り、整形のリークが起こり、肉体も精神も壊れてしまったりりこは破滅の一途をたどっていく。
美に執着し、次第に常軌を逸していくりりこを演じていたのが、同作が5年振りの映画カムバックとなった沢尻エリカさんだ。同作を一言で表すならば、沢尻さんのための映画と言ってもいいかもしれない。それほど、圧倒的な美貌で人々を魅了する沢尻さんが完璧な美しさで芸能界を席巻するりりこという役柄にハマった作品だ。
原作のりりこは過激な性描写が多かったが、沢尻さんはそんなシーンにも堂々と挑んだ。恋人・南部貴男(窪塚洋介さん)とメイクルームで愛し合い、プロデューサー浜口幹男(哀川翔さん)とベッドをともにし、マネージャー・羽田美知子(寺島しのぶさん)に体をまさぐらせ、美智子の恋人・奥村伸一(綾野剛さん)を奪って絡み合う。
美しい体を惜しげもなく披露し、俳優との絡みも大胆にこなす姿は迫力満点。そこに、蜷川氏が作り出す極彩色の映像美が加わり艶やかさを引き立てていた。
公開前の撮影現場会見では、リハの段階から脱いでいたことが明かされた沢尻さん。その大胆さと勇気に賞賛の声が上がると、「ラテン系だから」と笑顔を見せ、「原作をリスペクトしているので」とりりこへの想いも語っていた。同作での熱演は多方面から高い評価を受け、沢尻さんは日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞している。