■手塚治虫による大人向けのファンタジー『ばるぼら』

 最後は、2020年公開の『ばるぼら』を振り返る。原作は1973年に『ビッグコミック』で連載されていた巨匠・手塚治虫さんの同名漫画で、見るものを伝奇的で摩訶不思議な世界に引き込む独特の世界観でマニアックな人気を誇る名作である。“映像化不可能”とまで言われていた同作を実写化したのは、手塚さんの長男である手塚眞監督だ。

 主人公は、売れっ子ながら自己肯定感が低く異常性欲に悩まされている小説家・美倉洋介(稲垣吾郎さん)。美倉はある日、新宿で放浪生活を送るアルコール依存症の少女・ばるぼら(二階堂ふみさん)と出会い、彼女を家に招いた。強い魅力を放つばるぼらに翻弄され溺れる美倉は、次第に現実と幻の境界線が歪み、エロティックで破滅的な世界に落ちていく。

 現実離れした雰囲気を纏う美倉というキャラクターは、稲垣さんのはまり役だった。そんな美倉の心を奪ったばるぼらもまた現実離れした人物であり、二階堂さんの妖艶な魅力とマッチしている。

 物語中盤、そんな二人の濃厚なラブシーンが描かれた。ジャジーなピアノの音色が響く中、快楽に身を任せて一日中何度も体を求めあう美倉とばるぼら。二階堂さんはフルヌードでこのシーンに挑み、引き締まった体をさらけ出している。

 露出の激しい濃厚な絡みの場合どうしてもアダルトな印象が最初にくるが、同作は撮影監督のクリストファー・ドイルによる幻想的な演出によって、上品でクールな雰囲気が漂う。

 手塚監督はかつてインタビューで「シンプルなラブストーリーでセクシーな映画を作りたいと思った」と語っていたが、言葉通り二人がお風呂の中で裸で抱き合ってキスをするシーンなどはアートのように美しいものだった。

 ちなみに二階堂さんは、自ら働きかけて実現したという岡崎京子さんの『リバーズ・エッジ』の実写化作品でも、激しいラブシーンに挑戦している。

 様々な作品でセクシーシーンに挑み、新境地を開いてきた女優たち。賛否が集まるシーンではあるが、覚悟を持って本気で役に向き合う女優たちの演技は圧巻の迫力だ。

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