プロデューサー的センスを磨いたのは小学生時代

──その後の酒井さんは、プロレスラーとして「マッスル(かつてDDTプロレスリングが手掛けていた興行のブランド名)」のリングに上がり、『はっちゃく』、『戦隊』に続く3つ目の夢を叶えつつ、「ロフトプラスワン」のトークイベントを企画される立場になります。そのプロデューサー的感覚というのは、どこで磨かれたものなのですか?

酒井 それは『逆転あばれはっちゃく』(1985年)が一番デカいです。子役の頂点ともいえる仕事をやらせてもらったのですが、一度芸能界をスパッとやめた時期もあって。普通の視聴者に戻ったときに、いかにスタッフやスポンサーなど、いろいろな人たちに支えられていたのか痛感したんです。いろいろな番組のエンドロールを見て、「アシスタントプロデューサーだった人がプロデューサーになったんやな」といったことをチェックする小学生になっていました。

 スポンサーとか代理店とか、「出演者の○○さんが△△さんのバーター(売り出し中の芸能人を、同じプロダクションなどの売れている芸能人とセットで出演させること)や」とか、そうしたことが見えたし、世の中の変化、芸能界の流れが読めるようになったんです。

──純烈は、その末恐ろしい小学生が大人になってプロデュースした最高傑作ですね。

酒井 大手プロが前に立ちはだかる状況で、伸び悩んでいる人を見て「こいつら、ええもの持っているけど、あと3~4年のうちに地元に帰って芸能界をやめてしまう。今のやり方やったらそうなるな」という思いがあった。そこで、そうしたメンバーを集めて、演歌・歌謡曲で風穴を開けるっちゅう発想で。自分もまだ若くて「ここでやるしかない」というタイミングやったし。

──メンバーは特撮番組に出ていた人が中心でした。特撮出身俳優というのは横のつながりが生まれやすいものなのですか?

酒井 オーディションで会っていた人もいますが、藤岡弘、さんや影山ヒロノブさんなどの大先輩も含め、タテヨコ斜め、いろいろな人達とつながることができたのはロフトプラスワンのおかげですね。当時、特撮マニアである読売新聞の鈴木美潮さんが主催する「赤祭り」「青祭り」といった特撮トークイベントを担当していたので。

──そこで、巨大な特撮ネットーワークが広がったんですね。一方で、純烈はメンバーの年齢がバラバラで、『ガオレンジャー』に通じるところがありますね。

酒井 そこは意識をしました。5人兄妹設定だった『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999年)は年が近いから現場でケンカしまくっていたんですよ(笑)。それだけに、みんな大人になってからめっちゃ仲がいいんですが。

 その点、『ガオレンジャー』は、年齢が離れている。メンバーの聴いてきた音楽も、観てきたテレビ番組も違うから、「そんな考え方あるんだ。面白いね」といった感じで、異文化交流になって面白かったんです。だから『ガオレンジャー』に似せたってのはちょっとありますね。

──さて、そんな酒井さんが仕掛ける純烈の武道館公演ですが、どんな内容になるのか、言える範囲で教えてください。

酒井 普段のセットリストを決めているのは全部自分なんです。だけど、コンサートツアーの渋谷公会堂、NHKホールなど、プロレスでいえば“ビッグマッチ”は全部、誰かに任せるんです。 
何がイヤかっていうと、「こう歌って」「振付はああしよう」と自分で言っても、自分で最後やらなければならない。そこに照れがあるんです。ビッグマッチの時は“素敵にしなければならないシーン”があるじゃないですか。それを自分で自分に指令を出すのは恥ずかしすぎる。

 そのあたりは小池竹見さんというゴスペラーズもやっている演出家の方にお願いしています。また、「マッスル」からのつながりのスーパー・ササダンゴ・マシンが脚本を書いているので、プロレスが始まったり、突然芝居になって殺人事件が起きたりするんだと思います。「言える範囲で」とおっしゃいましたが、僕はまだ武道館で何をやるかわかってないんですよ(笑)。台本が上がってきてから初めて「これやるんか?」となるんでしょう。

──この記事を読んで「純烈の武道館、観に行ってみようかな」と思っている人に、伝えたいことはありますか?

酒井 沈んでいる人、気落ちしている人、真面目に学校に行って真面目に働いて……真面目に生きてきた、だけどポキンと折れてしまった人に来てもらいたいですね。「なーんや、こんなんでええんか」って思ってほしいというか、それが常に自分のメッセージですから。あとは、「純烈1回は観ときたいな」という人ですね。「武道館も二回目はやらへんで」みたいのはあるんで。

──あるんですか?

酒井 あるある! ファンのおっちゃん、おばちゃんが、九段下駅から北の丸公園までの坂を上がって来られるのはあと5年……10年経ったらしんどいやろうし。だから、今のファンの方への感謝の気持ちで1回やっておきたいという感覚ですね。ただまあ、「ぜひとも観に来てください!」というのは実はあんまりなくて。「武道館ガラガラでもおもろいやん」っていうのが純烈ですから。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4