90年代のドラマ界を席巻した脚本家といえば、野島伸司さんが挙げられるだろう。野島さんが手掛けたドラマには、『101回目のプロポーズ』のような恋愛ドラマや、『ひとつ屋根の下』のような心温まるホームドラマもあるが、『高校教師』や『この世の果て』など、ダークで重厚な作品も数多く存在する。
そんな野島作品におけるダークなドラマの印象をさらに強くしたのが、“怖すぎるキャラクター”たちである。今回は、そんな野島作品に登場した「怖すぎたキャラ」たちを振り返ってみたい。
■爽やかキャラが見せた残虐性に言葉を失った『高校教師』藤村知樹
1993年にTBS系列にて放送されたドラマ『高校教師』。真田広之さん演じる高校教師・羽村隆夫と、桜井幸子さん演じる女子高校生・二宮繭が禁断の恋に落ちるストーリーだ。
本作には多くの怖いキャラが登場するが、なかでもインパクトを残したのが京本政樹さん演じる藤村知樹だ。
藤村は美しいルックスから生徒にモテる高校教師であったが、心には闇を抱えていた。そして、自分の教え子である持田真樹さん演じる相沢直子を凌辱してしまう。その後も藤村は、その場面を録画したテープで直子を脅したり、自らの手をナイフで切ったりと、常軌を逸した行動をとっていく。
それまで京本さんといえば、『必殺仕事人』で美しくも影のある“組紐屋の竜”を演じるなど、中性的なビジュアルが印象的だった。女性に暴力を振るうようなイメージはまったくなかったゆえ、本作での彼の姿は“見てはいけないもの”を見ているような気持ちになり、衝撃的だったことを覚えている。
のちに京本さんはインタビューで、「周囲に“あんな過激な役をよくやりましたね”と言われた」と明かしている。ただ、自身は「時代劇のヒーロー役から脱皮する」という思いで前向きに挑戦していたそうだ。
普段は爽やかな印象があるだけに、卑劣な犯行をする藤村の役はファンに語り継がれるほど大きなインパクトを残した。大ヒットをおさめた『高校教師』だが、ここまで注目されたのは京本さんの恐ろしい怪演も理由の一つとなっていただろう。
■凄惨な体罰シーンは見ていてつらかった『人間・失格ーたとえばぼくが死んだらー』体育教師・宮崎
『人間・失格ーたとえばぼくが死んだらー』は、1994年7月からTBS系列で放送されたドラマである。
主人公・大場衛(赤井英和さん)の息子・誠(堂本剛さん)は名門中学に転校するが、そこで凄惨ないじめに遭う。教師たちも守るどころか彼を追い詰めていき、その結果、彼は自ら命を絶ってしまう。その後、息子の死の真相を知った衛は息子を苦しめた生徒や教師たちに復讐を果たしていく……というストーリーだ。
本作において、誠を執拗にいじめた体育教師・宮崎を演じた斎藤洋介さんの恐ろしい演技はあまりにも印象的だった。
プールで一生懸命泳ぐ誠に対し、「もっと早く泳げ」と竹刀を振るう宮崎。誠が「もう泳げない」と訴えると、宮崎はプールに飛び込み「教師の言うことが聞けないのか」と誠の頭を水面に押し付けるのだ。
宮崎は自身の女装趣味が学校で発覚し、そのことで行き場を失った感情も誠にぶつけていた。この体罰シーンは見ているだけでつらく、誠がいかに追い詰められていったのかを痛感してしまう場面である。
斎藤さんが演じた宮崎の加害演技は視聴者の心に深く刻まれ、誠の父親・衛による復讐劇への感情移入をより強めたように思う。その後、衛がプールで宮崎を追い詰め、ラーメンの出前で使う“おかもち”の箱を振りかざして圧倒するその場面は、今思い出しても鳥肌が立つほどの名演だ。
全体的にヒリヒリとした緊張感に満ちあふれたこのドラマ。実は本当の黒幕キャラは、イケメン教師の新見(加勢大周さん)であったというショッキングな展開も大きな話題となった。