1953年の初放送以来、『ひょっこりひょうたん島』や『プリンプリン物語』といったクオリティの高い作品で人々を楽しませてくれるNHK人形劇。子ども向け作品だけではなく、初代作の『玉藻前』や、人気脚本家・三谷幸喜さんが手掛けた『シャーロックホームズ』、2024年4月から再放送されていた『人形歴史スペクタクル 平家物語』などの大人が楽しめる人形劇もあり、老若男女問わず幅広い層から愛されている。
その一方で、実写ドラマともアニメーションとも違う空気感や、人形のリアルな質感は、子どもにとってはやや怖くも見えてしまうもの。「いまだに忘れられない」「トラウマになった」といった声が絶えない作品があるのもNHK人形劇の魅力かもしれない。今回は、そんな怖い作品たちを振り返っていく。
■子どもたちを震え上がらせたレジェンド的作品『牛方と山んば』
トラウマになった人形劇と聞くと、『牛方と山んば』を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。同作が初めて放送されたのは、1990年10月の「こどもにんぎょう劇場」だった。
それ以来、しばしば再放送されているが、そのたびに視聴する子どもたちを恐怖のどん底につきおとしている。同作は東北地方を中心に伝わってきた民話で、子どもにもわかりやすいシンプルなストーリーだ。
ある日、村で売るためのたくさんの塩鯖を牛に積んで薄暗い山道を歩いていた牛方(演:増岡弘さん)。山道を抜けて花畑に出ると、目の前に美しい女性が現れる。思わず見惚れてしまう牛方だが、女性が鬼の形相の山んばに変身し「塩鯖が食べたい」と襲い掛かってくる。
驚いた牛方は塩鯖を与えて逃げ出すも、山んばに「もっと」と追いかけられ塩鯖をすべて奪われてしまう。そして今度は「その牛をおくれ」と髪を振り乱して牛に襲い掛かり、しまいには牛方も食べようとする。命からがら逃げた牛方は無人家に身を隠すが、そこに帰ってきたのはなんと山んばで……と、どこまでも恐ろしい話。
同作の恐怖ポイントは、なんといってもクルクル変わる山んばの表情だろう。口が耳まで裂け、目を見開いたドアップの顔は、子どもにはショックが大きいものであった。