■不気味な雰囲気と耳に残るメロディーが印象的な『パンをふんだ娘』

 1975年に『にんぎょうげき』内で前編・後編に分けて放送された、劇団かかし座による影絵劇『パンをふんだむすめ』もなかなかに怖い。アンデルセン童話は“実は怖い”と有名だが、影絵の暗い雰囲気とあいまって、子ども目線だとより恐ろしく見えてしまう作品だ。

 主人公は美しい少女・インゲル。だがインゲルは、非常に残忍でわがままな性格をしていた。ある日、美しい彼女を見たお金持ち夫婦が養子にもらいたいと訪ねてくる。インゲルは、贅沢ができると母をあっさり捨て、お金持ちの娘になった。

 月日が流れ、パンを土産に里帰りしたインゲルは、久々に見たみすぼらしい姿の母に文句を言い帰ろうとした時、泥水に足を突っ込んでしまう。服を汚さないようにとパンを泥水に投げ入れて片足を乗せた瞬間、深い沼に落ちてしまった。

 沼の底に着くと沼女が毒を作っていた。インゲルは毒を貰いにきた魔女に「廊下の飾りにしたい」と地獄の底に連れていかれ、意識のある状態で足にパンを付けたまま固められてしまう。

 いっこうに反省せず、神への怒りを露わにするインゲルの耳に、ある日「可哀想なインゲル」という声が聞こえてきた。その声は、地上でインゲルの噂を聞いた病弱な少女のもの。彼女はインゲルのために涙を流し、神にゆるしを請うていた。

 その涙は地獄まで届き、少女の純粋な優しさに触れたインゲルは涙を流す。そして、神はインゲルを声の出ない醜い鳥に変え地上に戻した。鳥となり、パンくずを集めては他の鳥達に分け与え続けたインゲル。集めたパンくずの量が踏んだパンと同じになったとき、美しい声の白い鳥となり天に召されていった。

 最後の最後でゆるしを受けたインゲルだが、パン=神を冒涜して地獄に落とされる展開はやはり怖い。が、それ以上に、沼に沈んでいくときの生々しい叫び声や、耳に残る独特な歌はトラウマものだた。

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