■ときには人ならざる者も…『寄生獣 セイの格率』田宮良子/田村玲子、『呪術廻戦』花御

 吹き替えやナレーターなど、さまざまなシーンで活躍してきた田中さん。カリスマ性のある声は、とくに“強い女性”がハマり役だった。その一方、“人ならざる者”を演じるとき、その迫力は倍増した。

 たとえば、『寄生獣 セイの格率』の田宮良子/田村玲子だ。人間に寄生するパラサイトのなかでも自ら子を生み育てるという異色の存在の良子を演じる田中さんの声には、終始凄味があった。

 とくに18話「人間以上」で発した「我々はか弱い それのみでは生きていけない ただの生命体だ だからあまりいじめるな」というセリフに、はっとさせられた視聴者は多かったことだろう。

 そして自分の子どもを体を張って守ったのちに「この前 人間のまねをして 鏡の前で大声で笑ってみた なかなか 気分が良かったぞ」と死んでいく玲子は、それまでのアニメキャラのなかでも特別なものを感じた。

 田中さんが『呪術廻戦』で演じた花御も、興味深いキャラだった。人が森を畏怖する感情から生まれた特級呪霊で、本作のなかでも強敵の一人。

 アニメの序盤では、花御の使う特殊な言語を田中さんの声を逆再生するという形で表現されていた。そしてアニメ18話「賢者」では本格的な戦闘に入り、満を持して正再生となった田中さんの声。エピソードの最後で花御の発した「死して賢者となりなさい」というセリフは、畏ろしくも迫力満点だった。

 

 今回紹介しきれなかったが、田中さんはニコール・キッドマン、ジェニファー・ロペスなど数多くの吹き替えも担当し、最近では『葬送のフリーレン』フランメ役も素敵な役だった。

 今後、田中さんのあの力強くも繊細な声を聞くことができないのかと思うと、ファンの一人として非常に寂しい。しかし、作品は今後も残り続ける。今はただ、ご冥福をお祈りしたい。

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