■恋する女性を救うための盾に……
次に紹介するのは、『機動戦士Zガンダム』の劇中に登場したアイリッシュ級戦艦「ラーディッシュ」がたどった末路についてだ。ヘンケン・ベッケナー艦長が指揮するラーディッシュは、第49話「生命(いのち)散って」のなかで、ヤザン・ゲーブルが駆るハンブラビの攻撃を受けて撃沈した。
その際にヘンケン艦長がとった判断は、ファンの間でもたびたび物議を醸している。
あの局面でラーディッシュのクルーは、僚友のエマ・シーンが乗るガンダムMk-IIが、ティターンズのハンブラビに追い詰められているのを発見する。そして艦長のヘンケンが、そのエマに惚れているのは周知の事実だった。
それを知ってか、ラーディッシュのクルーは「エマ中尉をこのまま見殺しにはできません」と進言。ヘンケンは悩んだ末、エマのガンダムMk-IIの近くまでラーディッシュを前進させた。
ヘンケンは艦を進める前に「すまない……」とクルーに告げており、艦を危険にさらす行為であることは理解していたはず。エマを助けるよう提案したのはクルーとはいえ、最終的に判断を下したのは艦長だ。それゆえに守るべき艦より、自身の恋路を優先させたと責められても仕方がない状況ではある。
とはいえ、ヘンケンの行動を擁護するなら、ガンダムMk-IIを攻撃していた敵モビルスーツは1機のみで、新造戦艦ラーディッシュの火力で弾幕を張れば撃墜できる可能性も考えられた。実際、艦を前進させたヘンケンは「左舷、敵モビルスーツを叩き落とせ」と攻撃命令を下している。
それにエマのガンダムMk-IIを見殺しにした場合、結局近くにいたラーディッシュが次のターゲットになった可能性も十分ありえた。そのとき味方モビルスーツの援護がなければ撃沈される可能性が高く、それならガンダムMk-IIを救って、どちらも生き残ろうとする判断もありだろう。
ラーディッシュにとって不運だったのは、たった1機の敵モビルスーツに乗っていたのが、ティターンズが誇る名手ヤザンだったことに尽きる。あれが並のパイロットならば、最悪の事態は避けられたかもしれない。