■『パワポケ10』救いがなさすぎる…芳槻さらのバッドエンド

 高校球児が甲子園を目指す『パワプロクンポケット10』には、その爽やかな設定からは想像できないほど重く切ないヒロインがいる。それが主人公の同級生・芳槻さらだ。

 さらは幼少期にとある人物に裏切られた事件により、他人を信じる心が持てない女子高生だ。話しかけても最初は逃げ出されるのだが、諦めずに再アタックすることで友達となり、彼女キャラとして攻略できるようになる。

 人見知りで恥ずかしがり屋なさらが、主人公に少しずつ心を開いていく姿がなんとも愛らしい。

 しかし、3年目にさらの父親が事故で意識不明の重体になってしまうと状況が一変。「お父さんすら自分を裏切る」と思い詰めたさらは人間不信を悪化させ、ついには自殺を決意する。

 それを知った主人公はさらの説得を試みるのだが、これに失敗すると……彼女は「バイバイッ!」とだけ言い残し、屋上から身投げしてしまうのだ。

 このシーンに初めて遭遇した時は、正直何が起きたかわからなかった。ゲームは続いたので半ば放心状態でクリアしたのだが、エピローグで主人公がこう語る。

「仲間を信じてた夏もあったのになあ……。」

 さらを救えなかった罪悪感から彼女のように他人を信じられなくなった主人公の独白で、物語は幕を閉じる……。

 以上が、芳槻さらのバッドエンドだ。パワポケユーザーの間で「一番気分が落ち込むエンディング」とも語られるのだが、筆者もその意見に一票入れたい。

 

『パワプロクンポケット』シリーズでトラウマといわれるエピソードはこれだけではない。年下の妹キャラが精神崩壊の末に自我を失うなど、後味の悪い結末はまだまだある。

 とはいえ『パワポケ』は決して露悪的なだけのゲームではない。グッドエンドはとても希望が持てる結末が多いし、奇抜な設定の裏には野球の素晴らしさを伝えようとするテーマが隠れている。

 不幸な終わりがあるからこそ幸福が輝く。それこそが「野球バラエティ」の真骨頂であり、そう思えばトラウマエピソードも辛くは……いや、やっぱりちょっと辛い。

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