格闘技漫画では、試合に向けて選手が「減量」を行う描写が盛り込まれることは珍しくないが、中にはあまりにも過酷なトレーニングを行ったために激痩せしてしまったキャラクターもいる。今回はそんな激瘦せし、そしてその状態から見事復活して試合に挑んだすごすぎるキャラたちを振り返りたい。
■干し椎茸を舐め唾液まで絞り切る過酷な減量
まずは1989年から『週刊少年マガジン』で連載開始され、2024年2月16日にはコミックス最新刊となる140巻が発売された森川ジョージ氏のボクシング漫画『はじめの一歩』から。
長い歴史を持つ同作で印象的な「減量」といえば、主人公・幕之内一歩の先輩である鷹村守が王者ブライアン・ホークに挑んだWBC世界ジュニアミドル級タイトルマッチを思い浮かべる人は多いのではないか。
普段の体重が90kg近い鷹村は本来はヘビー級の体格だが、ホークとのジュニアミドル級の試合をするために20kgもの減量が必要になった。
計量2週間前からはほぼ完全に絶食、断水し、12月の寒さで汗が出ない中、ロードワークを行い汗を絞り出した。さらに水分を出すためにサウナスーツを着込み、部屋にはストーブをガンガン炊き、干し椎茸を口に含むことで汗だけでなく唾液も出し尽くした。
ボクシングの厳しい世界を描く『はじめの一歩』では他キャラクターも試合に向けて過酷な減量を行うシーンが描かれており、鷹村はタイトルマッチ前哨戦であるモーリス・ウェスト戦では減量に失敗し、全身がやつれて観客が心配するほどボロボロの状態に。なんとか勝つことはできたものの、ホーク戦での減量でも極限の状態になった鷹村は、肌の水気もなくなり、精神的にも追い詰められ幻覚を見る。ミイラのようになりながらも、なんとか計量をクリアした鷹村はホークとの世界タイトルマッチに臨む。
激しい減量でコンディションがいいとは言えない鷹村はホークに苦戦するが、8Rの激闘の末にKO勝ち。世界チャンピオンとなった。
激しい減量もさることながら、そこからの復活がアツイ。この試合を「ベストバウト」に挙げるファンも多く、2009年に同作の連載20周年記念として行われた公式アンケートではこの試合が第1位の人気を獲得していた。長い『はじめの一歩』でも屈指の名試合、名シーンだ。
■14kgの砂糖水で驚異の超回復
続いては「減量」ではなく、主人公が意外な激痩せした姿を見せたケース。
1991年に『週刊少年チャンピオン』で連載が始まった板垣恵介氏による漫画『グラップラー刃牙』。そこから現在連載中の『刃牙らへん』まで、『刃牙』シリーズは言わずと知れた格闘技漫画の金字塔だが、主人公・範馬刃牙は第2部にあたる『バキ』で、毒に侵され見るも無惨な痩せ細った状態になってしまう。
刃牙は回復のために静養していたが、肉体が復活するかもしれないというわずかな可能性に賭け、中国で行われる武闘大会「大擂台賽」に出場することを決意する。そして、激しい戦いを経て、敵の毒手に触れることで毒が裏返り回復することに成功する。
毒の問題はなくなったとは言え、ガリガリになった体では武術大会で勝利を納めることは難しい。そこで仲間の烈海王は彼に大量の料理を振る舞い、とどめに14kgの砂糖水を飲ませる。
通常、体が弱ったあとや断食の後などは、内臓への負担を抑えるためにお粥など回復食と呼ばれる消化に良いものを取ることが一般的だ。
しかし、『グラップラー刃牙』第1話でも試合直前に大量の食事と炭酸抜きコーラを飲んでいたように、刃牙の内臓の強さは常識を遥かに上回る。大鍋いっぱいの砂糖水を一気に飲み干し睡眠を取ると、刃牙の体は凄まじい「超回復」を起こし、元通りどころか、以前よりも肥大した肉体を手に入れた。激痩せからの完全復活である。
常人がやれば間違いなく、体を壊す、もしくは死に至るであろう量の砂糖水だ。刃牙のような肉体を手に入れたくてももちろんマネはできない。