■日本一有名な「過酷な減量」

「過酷な減量」と聞くと、ある世代より上は、いや、日本人の大多数はこの男のことを思い浮かべるだろう。続いて紹介するのは高森朝雄氏・ちばてつや氏によるボクシング漫画『あしたのジョー』の力石徹だ。

 力石は少年院時代からのライバルであるジョーとの決着をつけるための試合をマッチメイクする。だが大柄な力石は本来のウェルター級(66kg)からジョーのバンタム級(53kg)まで13kgも落とさなければならない。力石にとっては、もともとのウェルター級でも体を絞った状態であり、さらに過酷な減量が必要とされる試合だった。

 その減量の凄まじさはあまりにも有名である。自らの意思では抑えることのできない渇きからジムの地下室のドアを破り、水を求める。だが、白木葉子はそうなることを予測し、全ての蛇口を針金で固定していた。

 葉子は力石の体を労り冷たい水道水ではなく、一杯の白湯を差し出すが、力石はそんな彼女の姿を見て気力を取り戻す。葉子はもう試合を止めることはできないと悟る。

 そして過酷な減量を経て、ついにプロのリングでジョーとの対戦を迎える。その力石の姿はガリガリに痩せ細っており、まるで幽鬼のような姿になっていた。いわゆる力石のイメージはこの試合のときのやせ細った姿であるが、減量前の彼は恰幅の良い青年だった。その減量の凄まじさがよくわかる。

 お互いの死力を振り絞るような激闘の末、試合は力石のKO勝ちという結果に終わる。過酷な減量、試合を経て宿命のライバルから勝利を収めたのだ。ジョーが握手をしようと手を差し伸べ、力石もそれに応えようとして倒れる。その後まもなく死亡が確認されたが、痩せ細った姿からは想像もできない見事なまでの戦いだった。

 いずれも極限状態から、予想外の強さを見せたキャラたちばかり。そして読者が心配になるほどの姿を見せたあとの復活劇は、いずれもとてつもない感動を呼ぶものだ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3