■ 大河ドラマを思わせる重厚なストーリー
『幻想水滸伝』シリーズのもう一つの特色は、「人間と人間の過酷な戦争を描く」という点にある。多くのRPGが「善と悪」のように、絶対的な悪の存在を想定してそれを討伐する構図になっているのに対し、『幻想水滸伝』シリーズは「人間と人間」、つまり「国家間の戦乱」を描いている。戦う相手もまた人間であり、そこに登場人物の葛藤やドラマが生まれる。
シリーズ中でも人気の高い作品『幻想水滸伝II』では、敵役の一人としてルカ・ブライト皇子が登場する。侵略戦争を仕掛け、無慈悲に戦禍を拡大し、無抵抗の敗北者を蹂躙するルカ・ブライトの過激な言動は当時のプレイヤーに大きな衝撃を与えた。「俺は思うさま邪悪であったぞ!」と絶叫するルカ・ブライトの壮絶な戦いぶりは、プレイヤーの間で今もなお語り草となっている。
『幻想水滸伝』シリーズは、そうした戦争に翻弄される人々のドラマであると同時に、「世界設定を継承・拡大し続けるRPG」でもあった。すべての作品が1つの地図、1つの時間軸に配置されており、新作をプレイするたびに世界への没入感が高まっていく。
創世から続く「紋章」の存在を始め、第1作で語られた事象が第2作で噂話になったり、『外伝』で起きた事件の影響が第3作で語られたり、と作品間の歴史が存在するのだ。関連書籍では年表や地図が掲載されたり、ゲーム内単語の辞典が作られたりして世界設定の豊かさを裏付けた。
さらには、作品をまたいで登場する地名や人物が多く存在するため、ファンサービスも豊富。最初の3作品は特に共通キャラクターが多く、「ビクトールとフリック」のように、ファンなら誰もが知っている“カップリング”も発生した。
一方で、時間軸が異なる作品に登場し、「なぜこのキャラクターがここに?」と首を傾げるような、謎めいたキャラクターも何人か用意されている。プレイヤーはキャラクターの発言の隅々まで目を通し、「この台詞はもしかすると……」という解釈を楽しむことができた。