魔法少女もののアニメといえば、キュートな変身シーンや、少女たちが迫りくる敵と戦い勝利を重ねていくシーンが印象に残る。
しかし、中には彼女たちが身を犠牲にして地球の市民や友人たちを守るという切なすぎる展開もあり、子ども時代に涙を流しながら見たという人も多いはず。彼女たちがみな命を落とすわけではないが、それらは子ども向けの魔法少女アニメにしては設定がシリアスなものだった。
今回は、そんな“自己犠牲”を行った魔法少女作品を振り返ってみようと思う。
■自分の命と地球を天秤にかけて地球を守った『ナースエンジェルりりかSOS』
『ときめきトゥナイト』で知られる漫画家・池野恋さんと秋元康さんがタッグを組んで生み出した『ナースエンジェルりりかSOS』。漫画は『りぼん』1995年1月号から連載がスタートし、同年7月よりテレビ東京系でテレビアニメが全35話にわたって放送された。
変身ヒロイン・魔法少女もののアニメといえばポップでキュートなストーリーをイメージするが、『ナースエンジェルりりかSOS』はそれらと一線を画し、「命」をテーマにしたシリアス路線。ワクチンを巡って戦う看護婦という斬新な設定も、新鮮だったと言えるだろう。
そんな『ナースエンジェルりりかSOS』最大の自己犠牲は、何といっても最終回だ。地球と、対の星・クィーン=アースを守るため、ナースエンジェルとして敵と戦ってきた主人公・森谷りりかは、11歳の誕生日の前日に「地球とクィーン=アースを守るための命の花がりりかの中にあり、取り出すためには死ななければならない」という過酷すぎる事実を告げられる。
しかもそれを伝えたのが、りりかが片思いしていたクィーン=アースからの使者カノンこと加納望だったから余計に辛い。悩むりりかの「生きたい」という言葉と、一方で小学生にもかかわらずすべてを背負って死ぬ覚悟を決める姿。このあまりにもシリアスな展開は当時の視聴者にもショックを与えたことだろう。
命を絶つ当日、りりかは誕生日パーティで自分を愛してくれる人々とともに過ごし、生まれてきたことへの感謝を述べて、みんなの記憶から森谷りりかの存在を消してもらった。自分との記憶をなかったことにすれば、誰も悲しまないと考えたのだろう。小学生のりりかが下したこの決断もまた辛い。
アニメ版では命の花を取り出した後、一面の花畑の上で目覚めた彼女が「生きてる」とつぶやくシーンで幕を閉じている。自分を犠牲にして世界を救う覚悟を決めた『りりかSOS』のヒロイン像は、その後の魔法少女アニメにも大きな影響を与えたのではないだろうか。
■友達のために魔法を捨てた『おジャ魔女どれみ』
続いては、1999年から放送がスタートした『おジャ魔女どれみ』だ。主人公・春風どれみたち“魔女見習い”が繰り広げるドタバタ魔法修行は、放送開始から子どもたちの心を掴んだ。
本作での「自己犠牲」が描かれたのは第1シリーズの最終話「さようならMAHO堂」のエピソード。おジャ魔女の世界には、侵すと罰として自身の身に呪いがかかるとされる「魔法使いの禁忌」があったが、MAHO堂の瀬川おんぷは、加護を与えてくれるブレスレットのおかげで呪いを受けないのをいいことに、日常的に禁忌を侵して禁断の魔法を使っていた。
どれみたちとの関わりを通じておんぷは魔法に対する考え方を改めていくが、そんな矢先に彼女たちが魔法使いだとバレるトラブルが起こる。バレた魔法使いはマジョガエルになってしまうため、おんぷは覚悟を決めて「人の記憶を消す」禁忌を侵した。
運悪くブレスレットが壊れたことでおんぷはこれまでの災いもまとめて受け、「100年の眠りにつく」呪いを受けてしまう。禁忌を侵した魔女を助けると、助けた者は魔女資格を剝奪されるが、どれみ・はづき・あいこ・ぽっぷは「おんぷはもう改心していて自分たちのために呪いをうけた」と言い、自分たちの資格を犠牲にしてまでおんぷを眠りから覚ましたのだ。
これによって全員がせっかく会得した魔女の資格を失うが、その分、絆は深まった。特におんぷは、登場時とは比較にならないほど、仲間思いで優しい女の子になっている。