■「あんたはとっくに、あたしの誇り」…『アオアシ』青井紀子

 2022年4月にTVアニメ化した人気サッカー漫画『アオアシ』(小林有吾氏)では、主人公と母の絆を描く感動的なシーンがある。

 フィールド全体を見渡す「俯瞰」の才能を持つサッカー少年・青井葦人は、激しいセレクションを経て強豪・エスペリオンユースへの入団をもぎとる。しかし、それは女手一つで自分を育ててくれた母親・青井紀子を置いての上京を意味していた。

 昼も夜も働いて自分を育て、貧しいのにサッカーまでさせてくれた紀子。アシトは母の気持ちを思うあまり、じっくり話し合えないまま時間ばかりが過ぎていく。

 そして東京へ向かう当日、バスに乗ろうとしたアシトは兄の瞬から、紀子が綴った手紙を渡される。いったい何が書いてあるのか、車内でおそるおそる手紙を読むアシト。

 手紙には、東京で使うお金の入った通帳を同封したことや、上京について話し合おうとしたのにできなかったことへの謝罪など、アシトの心配とは裏腹に、紀子の思いの丈が書かれていた。

 とくに、手紙の最後に書かれた次のメッセージは印象深い。
「あんたがサッカーうまかろうと へただろうと、プロに なろうとなるまいと、あたしは関係がない」「そんなんなくっても、あんたはとっくに、あたしの誇り」

 アシトが手紙を読むこのシーンは、本作屈指の名場面でもある。旅立つ息子へあらん限りの愛情を伝えようとした紀子を思い、アシトは大粒の涙を流す。その美しい親子愛に、つい涙がこぼれてしまった読者も多いのではないだろうか。

 

 当たり前だが、スポーツ漫画に登場する母親は主人公と同じ試合に出られない。だからこそリングやグラウンドの外から主人公を見守り応援する展開があり、これこそが見せ場といえるだろう。

 同じ戦場には立てないが、気持ちは一緒に戦っている。それこそがスポーツ漫画の母親キャラの魅力であり、読者に愛される理由ではないだろうか。

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