■『はじめの一歩』や『イナズマイレブン』にも…

 瞬殺シーンがあるのは、バトル漫画だけではない。スポーツ漫画でも、強豪チームや強い選手がそれまで名前も知られていないような敵に負けてしまう場面が、しばしば描かれてきた。背景のわからない敵の圧倒的な強さや予想外の展開に、読者もハラハラドキドキさせられたものである。

 例えば、森川ジョージ氏の『はじめの一歩』に登場した宮田一郎。彼は、主人公である幕之内一歩の憧れの存在であり、一番のライバルだった。その強さは誰もが認めるほどだったが、東日本新人王決勝トーナメント準決勝での間柴戦で悲劇が起こる。

 宮田優勢で進んでいた試合だが、間柴が勝ちたいがあまりに故意に反則すれすれの行為をとり、それが原因で宮田は足を痛めてKO負けとなってしまったのだ。

 また別の作品では、アニメ『イナズマイレブン』のフットボールフロンティア全国大会に出場したチーム「世宇子(ぜうす)中」も印象深い。彼らは、40年間無敗の絶対王者・帝国学園を10対0という大差をつけていとも簡単に破ったのだ。無名かつ謎に包まれた強豪の登場に、多くの読者が驚いたことだろう。 

 彼らの強さの秘密は「神のアクア」と呼ばれるドーピングアイテムだ。しかし、無敵と言われていた帝国学園が反撃すらできないほどの強さを誇る世宇子中は、主人公が所属する雷門中悲願の「優勝」に大きな脅威をもたらした。

 

 今回紹介した例のように、強いと思っていたキャラクターがあっさり負けるというシーンは、読者にいい意味でも刺激を与える。

 彼らがそこからいかに這い上がるか、さらなる強さを手に入れられるのかといった今後への期待も高まり、実際にその後強敵に勝利したときは高揚感もひとしおだ。

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