『ドラゴンボール』に『タッチ』にも…“雨の描写”が印象的だった漫画・アニメの名シーン3選の画像
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 漫画やアニメにたびたび登場する「雨」。雨のシーンだからこそキャラクターの魅力が最大限に引き出され、読者はその世界に没入することもあるだろう。今回は、国民的人気漫画に登場する印象深い雨のシーンを紹介する。いずれも多くの人が読んだことのある漫画なので、ぜひ読み返してほしい。

■悟空の成長した姿が描かれた『ドラゴンボール』天下一武道会の待ち合わせシーン

 漫画やアニメでの雨のシーンと言えば、鳥山明氏の『ドラゴンボール』にて第23回天下一武道会での待ち合わせシーンを思い浮かべる人も多いだろう。

 ピッコロ大魔王を倒した少年時代の孫悟空は神様のもとで修行をし、その3年後にみんなで集まる。会場にはまず、亀仙人やブルマ、ウーロンなどが集まるのだが、そこに「おっす!」「じっちゃん 生き返ってよかったな!」のセリフのもと、悟空が登場する。

 成長期を迎えた悟空の変貌ぶりはすさまじく、背もかなり伸び、体格もすっかり大人の身体つきに。その場にいた誰もが一見気づかないほど強くたくましい青年となっていた。

 そして、悟空の登場後は雨が小降りになり、すべての仲間が集まるころには晴天になる。まさに歴史に残る天下一武道会の幕開けだ。本作において“雨の描写”がかなり珍しいのも、読者の記憶に残る印象的なシーンとなった理由だと思う。

 そして『ドラゴンボール』は、このシーンから一気に本格的バトル漫画に変貌していく。本降りの雨から空が晴れわたっていく様子は、まさにここから本作が世界的な大ヒット漫画へ昇華するのを予見しているかのようだった。

■思春期の心情を繊細に映し出す『タッチ』達也と南の相合傘のシーン

 あだち充氏による『タッチ』にも、印象的な雨のシーンがある。それは、達也と南の相合傘の場面だ。このときの達也は野球部のエースで活躍している和也の活躍を尻目にボクシング部に入り、下手ながらもなんとか続けている……という状況だった。

 そんなある日、雨で野球部の練習がなくなった南は、図書館でボクシング部が終わるまで待ち、傘のない達也と相合傘をして帰ることに。

 南は「べつに……わざわざタッちゃんをまってたわけじゃないからね」と、うそぶく。それに対し、達也も「だれも誤解しやしねえよ」と、少々ふてくされた様子を見せる。

 しかしその後、達也は傘をさりげなく傾けて南が濡れないように配慮した。彼の優しさや愛情が分かる描写だ。

 さらに別れ際に南も「わざわざボクシング部おわるのまっててやったんだぞ」と言い、「だって、さっき…」と達也が言いかけると、「ウソ。」と言って笑みを浮かべて家に帰って行く。

 このセリフからは、南の思わせぶりな姿が垣間見える。一連のやり取りを通し、読者は二人の気持ちが両想いだと推測しただろう。

 あだち氏が描く物語は、余計なセリフを加えず、読者に想像を促すスタイルであると思う。言葉は不要でありながら、傘の下に2人で立つことが彼らの心を微妙に交差させており、秘めた恋心が雨のなか、静かに沸き立っているのも印象的だった。読んでいて甘酸っぱい感情が広がったのは、筆者だけではないはずだ。

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