■当時は憧れていたバラのあれこれ『ガラスの仮面』『ポーの一族』
1976年より連載された美内すずえさんの『ガラスの仮面』は、演劇の天才少女・北島マヤが伝説の演目『紅天女』を目指す物語。マヤの行く手にはさまざまな困難が待ち受けているが、そんな彼女を影ながら見守るのが「紫のバラの人」こと大都芸能の社長・速水真澄だった。
作中では頻繁に登場する紫のバラだが、そもそもバラの花弁には紫色を作り出す青色色素が存在しない。そのため76〜77年にあったであろう紫のバラとは、花に青系のインクを吸わせたものかピンクっぽい可能性があるのだ。その後、2004年にサントリーが遺伝子組換え技術で「青いバラ」を誕生させたが、それは青というより「紫のバラ」だった。現在は品種改良が進み、作中のカラー頁に登場する「紫のバラ」に近い色の花が誕生している。
50年以上も前に描かれた萩尾望都さんの『ポーの一族』は、呪われたバンパネラ(吸血鬼)にされ苦悩するエドガー・ポーツネルを中心とした物語だ。バンパネラは人間の血を吸わない時は赤いバラを食べ、隠れ里に住む村人の食事はバラのスープのみである。こうした吸血鬼とバラの組み合わせは以前からあったが、その後のイメージや世界観など本作が与えた影響は大きい。もしもエドガーの真似をしてバラを食べた人がいたならば、そのエグみに驚いたかもしれない。
ちなみに、食用花(エディブル・フラワー)のバラは使われる農薬や用途から野菜と同じ食材と考えられているため、スーパーなどでは青果売り場に置かれている。
■イケメンたちがバラを持つと恐ろしい武器やキザなアイテムに?
他にも、バラは武器やアイテムとしてさまざまな作品で活躍する。『聖闘士星矢』に登場した魚座の黄金聖闘士アフロディーテの必殺技は、ロイヤルデモンローズやピラニアンローズなどバラを使ったものだ。『幽☆遊☆白書』の蔵馬は薔薇棘鞭刃(ローズ・ウィップ)を主体とし、バラの花びらをバリアとした「風華円舞陣」など華麗で強力な技を使用した。
また、バラを片手に登場する男性は総じてキザでもあった。『ONE PIECE』に登場するキャベンディッシュ、『ポケットモンスター』のコジロウ、『戦国魔神ゴーショーグン』の敵幹部レオナルド・メディチ・ブンドル、彼らの共通点はバラを片手にキザな登場である。また、『美少女戦士セーラームーン』のタキシード仮面は、投げたバラが地面はおろかコンクリートに突き刺さるほどの恐ろしい威力を持っていた。
多くの人々から長きにわたって愛され続けてきたバラの花。美しさの比喩として、印象的な場面で、稀有な意味で、残酷な強さなど、さまざまな作品で重要な役割を果たしてきた。次はどんな新しい「バラ」の物語が生まれるのか楽しみだ。