■「悪党には悪党の報いがある」/『蒼天航路』董卓

 三国志を題材とする『蒼天航路』(原作・原案:李學仁氏・作画:王欣太氏/講談社)に登場する武将・董卓は、漢の皇帝を支配下に置いて政治を牛耳った人物。

 この名言は、まだ董卓が皇帝を支配下に置く以前に、私利私欲のために悪行を重ねてきた張譲(ちょうじょう)へのセリフだ。張譲は皇帝を握っていることを切り札に、董卓に対しても影響力を保とうとした。しかし董卓は無情にも「悪党には悪党の報いがある」と切り捨て、さらに残虐極まりない処刑方法を宣告する。このセリフによって、張譲は董卓という人物の無法の程度を見誤っていたことを知ったのだった。

 ちなみに、史実では専横を極め酒池肉林の限りを尽くした董卓は、そのだらしなさを強調し肥満体で描かれる作品が多いが、『蒼天航路』の董卓は、魔王のような貫禄すら漂わせた力強さが感じられる偉丈夫として描かれていて、その解釈も興味深い。

■「金は命より重い・・・・!」/『賭博黙示録カイジ』利根川幸雄

『賭博黙示録カイジ』(福本伸行氏/講談社)で、帝愛グループの最高幹部の1人として負債者たちの命を賭けたゲームを仕切っていたのが利根川だ。主人公であるカイジの敵キャラであり、ラスボス的存在として描かれている。

 この名言は、佐原という参加者に向けたセリフだ。人間競馬で優勝し、賞金2千万円の引換券を手に入れた佐原が、換金するには命懸けの鉄骨渡りをクリアしなければならないと知り、怒りをあらわにする。それをただ黙らせるだけでなく、説得力をもって論破していくのが利根川の「金は命より重い・・・・!」だ。

 この言葉だけを聞くと極端すぎると感じてしまうが、このあとに続く利根川の演説には、彼なりの苦労や人生観がうかがえ、思わず頷いてしまう読者も多いだろう。

 今回は敵としての美学を感じずにはいられない、悪役が発した忘れられない名言5選を紹介した。通常、物語は主人公サイドからの視点で進行するため、相対する敵キャラは、どうしてもわかりやすい悪として描かれることが多い。しかし、視点を変えて敵キャラ側から物語をとらえた場合、見えてくる景色はまた違ったものとなる。そんなことを考えながら、作品を読み返してみるのも面白いかもしれない。

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