――たかしげ先生が最初に持ち込んだ原稿の時点で、世に出た『スプリガン』の大枠はできあがっていたんですか?

たかしげ:そうですね。もう出所がインディ・ジョーンズの『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』のラストシーンなんで。いっぱい宝物が重なっているんですけど、あれが全部危ないものだったら大変だなと思ったところからの発想だったんです。そこに、現代劇だから現代性を取り入れたほうがいいのかなと思って、ああいうフォーマットになっていきました。

皆川:僕も原作を読んだときに「これは絶対に『レイダース』が好きなやつが書いてるんだろうな」と思いました。僕もスピルバーグが大好きで、スピルバーグの映画の影響で漫画を描いていた感じだったので、これはもしかしたら話が合うやつかもしれないと思っていましたね。

アニメ『スプリガン』場面カット
©2021 たかしげ宙、皆川亮二・小学館/スプリガン Project

――改めて読み返してみると、インディ・ジョーンズ的な冒険活劇の側面と同時に、当時の世相や社会情勢も投影されていますけど、これは?

たかしげ:そういうのは彼(皆川)が大好きだったんです。そういうの入れようよって。

皆川:若気の至りですね(笑)。なんか世の中に対して怒っていたんでしょうね。『朝まで生テレビ』とか観ながら、アホみたいにとんがってた。

たかしげ:そういうものをちょっと入れるのは別に自分も嫌いじゃないんですけど、彼が「学歴社会を入れようぜ」とか言ってくるんで、「わかった、ちょっと考えてみる」とか言って。

皆川:ごめんなさい(笑)。

たかしげ:謝らないでくれ、それなりに何とかなったから(笑)。

――それが『スプリガン』という作品を多面的なものにしたところはありますよね。

たかしげ:そうそう。我ながら言われて書いたわりによくできたなと思ってたし。

皆川:今読むと「恥ずかしい!」ってなるんですけどね。

アニメ『スプリガン』場面カット
©2021 たかしげ宙、皆川亮二・小学館/スプリガン Project

――連載開始当初はお互い顔を合わせないままに作っていたわけですよね、それはどういうプロセスだったんですか?

たかしげ:最初は自分が書いたものを担当がチェックして皆川さんに回すっていう形だったんですけど、仲良くなってからはダイレクトに要求が来たり、今みたいに「こういうのやらない?」って言ってきたり。そういう彼の要求を受けて、やり取りをしつつ転がしていきましたね。

皆川:最初担当のKさんに「とにかく面白くしろ」って言われて。それが一番難しかったですね。さっき話したとおり、デビューするまで僕は漫画を一本ちゃんと描いたことがなかったんですよ。まったく漫画のことを知らなかったから、イチから基礎を叩き込まれましたね。今思うとそこで育ててもらえたことはありがたかったなと思います。最初の「炎蛇の章」のときはまだたかしげさんに会っていなかったので、とにかく怒られながらやっていた印象があります。

たかしげ:でも実際に会うようになってからはだんだんうまくいくようになって、「狂戦士(バーサーカー)の章」ぐらいからは本当にスムーズに進むようになったと思います。

アニメ『スプリガン』場面カット
©2021 たかしげ宙、皆川亮二・小学館/スプリガン Project

――主人公の優をはじめ人物造形とかキャラクター設定も『スプリガン』の大きな魅力だと思うのですが、ああしたキャラクターはどのように生まれていったんですか?

たかしげ:基本は自分のほうで考えましたけど、キャラの肉付けは皆川さんがやってくれました。

皆川:僕は漫画のキャラクターの作り方もよくわかっていなかったので、自分の好きな漫画のキャラクターを思い浮かべながら描いていましたね。望月三起也先生が大好きなんですけど、望月作品に出てくるキャラクターみたいなかっこいいキャラを描こうと思って描いていたら、そしたらいつの間にかキャラクターができていった。

たかしげ:自分も望月三起也というイメージはありました。高校生とかがヒーローになるっていうのも望月先生はやっていたので。

皆川:それでいろいろなキャラクターがどんどんできていったら、今度は「こういうキャラクターが欲しいよね」というのも出てきて。そうやってどんどん増えていきましたね。

アニメ『スプリガン』場面カット
©2021 たかしげ宙、皆川亮二・小学館/スプリガン Project

――とくに思い入れのあるキャラクターっていうと誰になりますか?

たかしげ:当時の会話ですけど、「帰らずの森篇」で暁巌というキャラクターを出したんですけど、あれは意外と適当だったんですよ、こっちとしては。こういうタイプのこういう位置づけのキャラクターがいないと成り立たないよなっていうことで入れたんだけど、上がってきた原稿を見たらいいキャラクターになっていて。

皆川:キャラクターって物語の中でどんどん育っていっちゃうんです。そういう意味では僕は染井芳乃とかは大好きでした。唯一いつも出ている女の子として、描いていて楽しかったですね。

――芳乃も暁も、本当に最後の最後まで重要な役回りを担うキャラクターになりましたよね。

皆川:なんだかんだそうなっちゃいましたよね。そこで消えると思っていたら、思いのほか最後まで残っちゃった。

たかしげ:いいキャラだったのでまた出したっていうのもあるんですよ。

皆川:ボー・ブランシェなんて、絶対に使い捨てキャラだと思っていたのに、描いてみたら思いのほか面白かった(笑)。漫画ってそうやってできていくんですよ。逆に御神苗優がいちばん描きにくかったですね。描けば描くほどサブキャラが育っていっちゃって、思い入れも強くなっていくので、だんだん御神苗が蔑ろになっていってしまう。「どうするかな」と思って十字架みたいなものを背負わせたりするんだけど、そういうことをやっていると御神苗というキャラがどんどん暗くなっていっちゃって。そこは難しかったですね。

たかしげ:でも逆に、周りが極端だから真ん中にいりゃいいやって作り方をしてたところもあって。他の漫画でもよくあるけど、サブキャラの方が個性的だから主人公がキャラ多角形フレームの真ん中にいるっていう。そういう作り方をしていたつもりです。

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