■ヌメっとした感じの気持ち悪さと、生命の美しさ

 1986年のデビューから、画業35年を超える伊藤氏だが、長年のキャリアの中で、健康をどのように維持してきたのか。

「食事は出されたものを食べるという感じでまったく気を遣っていません(笑)。ただ、私はもともとすごく身体が柔らかかったんですけど、最近は固くなって、これはほぐさないとダメだと思い、風呂上がりにストレッチをしていたんです。すると、軽いヘルニアになってしまいまして。ストレッチはやめています(笑)。

 また、健康でいうと、昔はすごく夜型の生活でしたね。でも、結婚して子どもができて、昼型に変わっていって。それにいまはやろうとしても、そういう時間に執筆できないので朝9時過ぎには起き、昼間は仕事をして、夜は遅くとも2時ぐらいまでに寝ています。もともと、睡眠欲に抗えないので、徹夜ができないタイプなんですけどね(笑)。それでも歳のせいか、睡眠時間が短くなっているところがありますね」

 ぜひ、お身体を大切にしていただきたいところだが、今年2月にも新刊『不気味の穴――恐怖が生まれ出るところ』を刊行。その創作ペースは衰え知らず。いま、新作を描かれる際に、大切にされていることをあらためて教えていただいた。

「大事にしているのは、毎回どんな短編を書くにしても、新しい要素を必ず入れるということですね。その気持ちだけは30余年一貫しています。あとは“雰囲気”。ホラー漫画って雰囲気がすごく大事なため、演出、絵による雰囲気作りみたいなものを大切にして描いています」

 その創作、仕事への姿勢には多くのことを気付かされるばかり。

「やはり、『これまでにないものが描けた!』と思えた時が創作の醍醐味ですね。頭の中でアドレナリンが出ているというか、いちばん楽しい。でも、すでにどこかの誰かが考えたアイディアかもしれませんし、実態はわかりません(笑)。しかし、根拠のない自信でバーっと新しい何かを生み出していると思いながら描く時が、最高に気持ちいいんです」

 伊藤氏ならではの説得力のある言葉だ。最後に伺ったのは、「伊藤潤二『マニアック』」にちなみ、伊藤氏が「マニアック」に好きなこと。それをお聞きすると、自身の創作者としての理想の一人と語る、あるデザイナーの名前を挙げてくれた。

「私はエイリアンのフィギュアを、これ以上集めたくないくらいマニアックに持っていると思います(笑)。とくに一作目の『エイリアン』が好きで、そのエイリアンを生みだしたH・Rギーガーというデザイナーが好き。そのデザインにずっと夢中になっています。とくにヌメっとした感じの気持ち悪さと、生命の美しさの両方を感じられるのが素晴らしい。それまでこの世に全く無かった存在を生み出したギーガーを、心から尊敬しています。なので、エイリアンは創作の目標だし、私にとってはクリーチャーの頂点。私自身が漫画を描き続けることで、いつか少しでもギーガーに近づけたらいいなと思っています」

《プロフィール》

伊藤潤二
いとう・じゅんじ
1963年生まれ、岐阜県出身。89年に第1回楳図賞で入選し、投稿作『富江』で漫画家デビューを果たす。以降、『道のない街』『首吊り気球』『双一』シリーズ、『死びとの恋わずらい』などの名作を生み出し、映像化作品も多数。19年には、世界で最も権威のある漫画賞の一つ、米国アイズナー賞にて『伊藤潤二傑作集10巻 フランケンシュタイン』(英語版)が「最優秀コミカライズ作品賞」を受賞。22年には最優秀アジア作品賞を受賞し、通算4度目の受賞という快挙を達成。 その作品は海外でも高い評価を得ている。

Netflixシリーズ「伊藤潤二『マニアック』」
1月19日より独占配信中
原作:伊藤潤二「伊藤潤二傑作集」「魔の断片」「伊藤潤二研究ホラーの深淵から」(朝日新聞出版刊)
監督・キャラクターデザイン:田頭しのぶ
脚本:澤田薫
制作スタジオ:スタジオディーン
音響監督:郷田ほづみ
音楽:林ゆうき
【Netflix作品ページ】
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© ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

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