■『グラップラー刃牙』花山薫VS愚地克己

 敗者が光ったバトルでいえば、板垣恵介氏による漫画『グラップラー刃牙』での花山薫と愚地克己の戦いもそうだろう。

 喧嘩師と空手家との戦いということで注目を集めた最大トーナメント戦の第2回戦。克己は父親の独歩からも才能を認められる空手家で、空手界の最終兵器とも呼ばれていた。そんな克己を相手にする花山は何の努力もしない、握力だけを武器にしたヤクザである。そのため勝負にはならないだろうと思われた。しかし、克己の空手の技が花山には全く通用しない。

 あらゆる攻撃を真正面から受けきって、花山は反撃を繰り出すことで克己を追い詰めていったのだ。花山に追い詰められたことで、克己は心を入れ替える。「花山薫という本物を相手に戦力を隠す愚を思い知った」そう話すと、自らの必殺技であるマッハ突きを繰り出したのだ。

 しかしそれでも花山は倒れず。マッハ突きを連続で食い続けたことで花山はようやく気を失った。辛くも勝者となった克己は、花山から勝負の厳しさを教えられ、これにより戦いの楽しさを知ることになる。負けた花山が、経験不足だった克己の成長を手助けしたのだ。

■『アカギ』赤木しげるVS鷲巣巌

 最後は福本伸行氏による『アカギ〜闇に降り立った天才〜』での赤木しげると鷲巣巌の最終決戦だ。赤木は鷲巣と血液と金を賭けた麻雀を行うことになる。かなりのハンデがあったが、アカギは持ち前のセンスによって無事に5回戦を乗り越え、残すは6回戦となった。

 鷲巣はそこで早々にW役満を上がり、アカギとの点差を広げ最終局さえ終えればそこで逆転勝利という局面まで迫る。しかし問題は、血液を抜かれたことによって意識が朦朧としている点だ。

 最後まで意識を保ちつつ終局できれば鷲巣の勝利は確実で、迎えた最終局は鷲巣に絶好のチャンスが舞い降りる。「東」さえ引ければ、部下の鈴木のサポートによってアカギたちにツモ番を回さず上がることができる。

 そして強運の持ち主である鷲巣は、周囲の期待を背に東を引くことに成功。「神だ!」と崇められ、残りは鈴木の出した牌を鳴き続ければ終局となるが……そこで鷲巣は動けなかった。意識が混濁して身体が思うように動かないのだ。

「ポン」と一声上げさえすれば全てが終わるという場面だったが、鷲巣はそのまま心肺停止となり、続行不能でアカギたちの勝利となる。大金を手に入れた仰木たちは大喜びするも、アカギは勝者の気分ではなかった。アカギは鷲巣が何者かに愛されていて、自分は違うと認めていた。

 

 決着に至るまでのドラマがあるからこそ、勝者よりも敗者が引き立つことがあるのだ。光があれば影もある。「負け」が輝く演出こそ、漫画ならではの表現ではないだろうか。

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