さまざまなジャンルの漫画があるなかで、どの作品にも必ずといって良いほど、主人公の前に立ちはだかる「敵」と呼べるキャラクターたちが登場する。試合相手や敵対勢力とその理由はそれぞれだが、もともと主人公の味方だったはずの格下キャラクターが力をつけ、思わぬ強敵として登場する場面もある。今回は味方から敵へと鞍替えしてしまった、意外な実力者たちの姿を見ていこう。
■強すぎる自信は“諸刃の剣”…『タッチ』吉田剛
何事を成すにも、やはり人間には「自信」が必要だが、度を越してしまうとそれはときに道を狂わせてしまうものだ。『週刊少年サンデー』(小学館)で連載された野球漫画『タッチ』にも、そんな強すぎる「自信」によって豹変していったキャラクターが存在する。
主人公・上杉達也の同学年である吉田剛は達也に強い憧れを抱き、野球部に入部してくる。同い年である達也に対し常に敬語で喋り、同級生でありながら“ファン”のような熱意を見せていた。
しかし、達也にとってライバルとも呼べる打者・新田明男を相手に投手として勝利をもぎ取ったことをきっかけに、彼の自信は一気に増長してしまう。結果、吉田は達也への接し方を一変させ、横柄な態度をとるようになっていった。
南米への引っ越しという理由で達也の前から姿を消した吉田だったが、その後達也にとって現役最後の都大会で佐田商業のエースとして再登場し、対戦することとなった。
絶対的な自信と身に着けた技術、そして古巣である明青学園の選手たちのクセを知っている吉田は序盤、好調に打ち取っていく。しかし、わずかなミスにより平常心を失い、結果的にコールド負けを味わうことに……。
本来、スポーツに必要なはずの「自信」が「慢心」へと変わってしまったことで、精神のもろさを露呈し敗北してしまった吉田。なんとも惜しいキャラクターだ。
■憧れの先輩に拳を届けるために…『はじめの一歩』山田直道
誰かへの「憧れ」が純粋に力となり、まっすぐな気持ちから主人公に挑んだ敵キャラクターも存在する。『週刊少年マガジン』(講談社)に登場するボクサー・山田直道は、その典型例ともいえるだろう。
山田は日本新人王となった幕之内一歩に憧れて、彼の所属する「鴨川ジム」へとやってくる。小太りの内気な青年で、ことあるごとに先輩ボクサーたちにいじられていた山田。プロボクサーにはなったものの、親の仕事の都合から引っ越すこととなり、彼は鴨川ジムを去ることとなる。
しかし、山田は一歩への強い憧れを決して捨てず、なんと新たに八戸拳闘会に所属し、「ハンマー・ナオ」というリングネームでプロの舞台へと姿を現した。かつての気弱な面影はどこにもなく、髪をそり上げた頭、打たれて変形した顔、鍛えた体つきはまったくの別人であった。
憧れの「先輩」に対し、身に着けた数々の技で食らいつくも、それを超える一歩の積み重ねた技量、熱意の前に完全敗北を喫する。不器用でありながらも、憧れを抱いた「先輩」に敬意を抱き、思う存分実力を発揮した一戦は作中屈指の名シーンといえるだろう。