■シュールなラブコメディと思いきや!? 『青野くんに触りたいから死にたい』

 椎名うみ氏による『青野くんに触りたいから死にたい』は、『月刊アフタヌーン』(講談社)で2016年から連載されている作品。原作コミックスは現在9巻まで発売されており、2022年にはSexy Zoneの佐藤勝利主演で実写ドラマ化もされた。

 主人公の優里は「初めて男の子と喋っちゃった」という理由で同級生の青野に惚れ、思い切って告白をする。それまでまったく接点がなかった2人だが、青野が戸惑いつつもOKの返事を出したため、恋人として付き合うことに。しかし青野はその2週間後、交通事故で命を落としてしまう。思いつめて後追い自殺をしようとした優里のもとに、幽霊となった青野が戻ってきて……というストーリーだ。

 本作の見どころといえば、なんといっても優里の突き抜け具合。“思い込んだら一直線”を体現したかのような存在で、大好きな人のためなら命さえ投げ出そうとしてみせる。しかもその相手は、2週間前に付き合い始めたばかりの恋人なのだ。

 彼女のこの行き過ぎなまでのピュアさは、見ている側に強烈な印象を残す。基本設定だけ見ればありがちにとれるにもかかわらず、本作がSNS上で話題となったのには、この点も大きく影響しているだろう。

 そんなちょっと風変わりなところがありながらも、優里と青野は恋人らしく楽しい日常を送っていく。いろいろなことをおしゃべりしたり、おうちデートで映画を見たり……。思わずほほ笑ましくなってしまうような場面が続く。

 ……が、一風変わった恋愛漫画だと思っていると、まんまとダマされることになる。第1話の時点ですでに不穏さは漂っていたのだが、物語が進むたびに青野をめぐるホラー展開が繰り広げられていくのだ。

 思わずゾクゾクするような描写も続き、シュールな日常回とのギャップのせいで情緒がめちゃめちゃになってしまう。それでも物語のメインは、あくまでもピュアなラブストーリーというところがたまらないのである。

 キャラクターの魅力やシュールなギャグセンス、切ない恋愛要素、考察しがいのあるストーリーなど、数多くの魅力にあふれた本作。ぜひとも実際に本編を読んで、一癖も二癖もある物語の魅力にどっぷり浸かってほしい。


「きっとこういう作品だろうな」という予想を裏切られた途端、その作品に夢中になってしまうことは少なくない。○○かと思いきや××……という意外性は、作品の魅力を引き立てる最高のスパイスと言えるだろう。もしかすると第一印象で興味が湧かなかった作品の中にも、こういうギャップが隠された作品が埋もれているのかもしれない。

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