■人間臭さを薄笑いで覆い隠す嘘つき
原作・西尾維新氏、作画・暁月あきら氏による『めだかボックス』は、2009年から2013年まで連載されていた学園バトル漫画。
私立高校・箱庭学園を舞台に、主人公である生徒会長・黒神めだかが生徒たちのお悩みを解決……というのが初期の内容だったのだが、次第にさまざまな“スキル”を持つ生徒たちのバトル漫画へとシフトしていった。メタ的な要素が多く取り入れられていて、王道の少年漫画とはひと味ちがうのも見どころのひとつだ。
同作の主要キャラのひとり・球磨川禊は、-13組(マイナスじゅうさんくみ)に所属する生徒。このクラスには、欠点にしかならないスキルとされる“過負荷(マイナス)”の持ち主が集められており、劣等感のかたまりのような人間しかいない。
球磨川は 過負荷「大嘘憑き(オールフィクション)」の持ち主で、「
現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする」ことができる。彼自身たいへんな嘘つきであり、特に初期の頃は嘘か本心か分からないことをぺらぺらとしゃべり、へらへら笑いながら場をかき乱していた。ちなみに彼のセリフは『』(二重カギカッコ)で囲まれているのだが、カッコがついているときは基本的に本心を語っていない。
整った容姿にアウトローな言動、クラスの変わり者たちを束ねる不思議なカリスマ性など、読者を惹きつけるさまざまな魅力にあふれている球磨川。しかし彼を愛すべきキャラクターにした最大の要素は、彼の“人間臭さ”だといえるだろう。
球磨川は作中で1度、“負け組のままで勝ち組の人間に勝ちたい”という本音をぶちまけたことがある。このときばかりはいつもの薄笑いもどこかへ消え、セリフには二重カギカッコが一切つけられていなかった。長台詞の締めくくりである「不幸なままで幸せな奴に勝ちたい! 嫌われ者でも! 憎まれっ子でも! やられ役でも! 主役を張れるって証明したい!!」という言葉からは、飄々とした態度の裏に隠された切実な想いが読み取れる。
普段何を考えているか分からない人間だからこそ、たまに本心を明かされると周りはそのギャップにやられてしまうのだ。全3回ある人気投票で2度、主人公を差し置いて第1位に輝いたことからも、彼の愛されぶりがよく分かる。