■正義感を暴走させた歪んだヒーロー『DEATH NOTE』夜神月

『DEATH NOTE(デスノート)』の主人公である夜神月は、強すぎる正義感ゆえに歪んでしまった人物だ。彼はある日、「名前を書いた人間が死ぬ」というデスノートを手に入れ、世直しのために多くの人間を殺していく。やがて正義も関係なくなり、自分にとって必要のない人間の命を奪う存在と化してしまった。

 月の恐ろしいところは、自分が正しいと思いこんでいる点にある。それでも建前として「腐ってる奴は死んだ方がいい」と犯罪者を粛清していた頃はまだよかった。いつしか、自分が“新世界の神”になるという目的が第一になり、その障害となりそうな罪なき人物まで容赦なく殺すようになってしまう。強すぎる力を手にし、暴走した正義が人を変えてしまった典型的な例と言えるだろう。

 月は、デスノートを手にしたことで大きく変わってしまったのは確かだが、ナチュラルに周りを見下し、勝者であることに異常なこだわりを持つ面があった。その歪んだ部分を正してくれる存在がいれば良かったが、能力的に彼と対等にわたりあえる存在がほとんどいなかったことを考えると、なかなか難しかったに違いない。

 ただし、原作の大場つぐみ氏は「死神がもし現れなかったら…?」という仮定の話として、月について「Lと肩を並べ、最高峰の警察関係者として犯罪者に立ち向かっていたのかもしれない」と解説本につづっている。もしデスノートが存在しなかった世界線なら、まったく違う未来があったのだろうか。

 ちなみに主人公でありながら悪のカリスマとなっていく彼だが、物語が進むと予想外の事態に慌てたり、都合が悪くなると責任転嫁したりと、かなりみっともない姿も披露。印象的な“顔芸”シーンも多く、一部のファンからはネタキャラとして親しまれている。


 今回、タイプの異なる3名の悪役を紹介してきたが、彼らに共通するのは「他人の痛みに対する共感性のなさ」かもしれない。人を人とも思わない残忍なふるまいに読者として怒りをおぼえてしまうが、彼らのような際立った悪役が存在するからこそ、善の側の魅力が引き立つのもまた事実である。

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