■奴隷使いに長けた小悪党『マギ』のジャミル
続いてはラスボスとは程遠い小悪党を紹介していく。それは大高忍氏によるファンタジー漫画『マギ』に登場するジャミルというキャラクター。序盤に登場して一瞬で退場したが、本作のヒロイン・モルジアナにトラウマを植えつけた残酷な人物であり、救いようのなさという意味ではなかなかに強烈だ。
ジャミルはオアシス都市・チーシャンの領主で、モルジアナが奴隷だった頃の主人である。整った顔立ちをしているが性格は歪みきっていて、自分の下にいる人間を使い捨てることに何のためらいもない。
さらに相手が自分の思い通りに動かなければ、眉ひとつ動かさずに暴力を振るう。作中で「最も優れた才能は奴隷使い」と評されていた通り、人を支配し、服従させるという点においては天才的だ。現代に生きていたら、間違いなくDV男だろう。
実際モルジアナは、戦闘民族“ファナリス”として圧倒的な強さを持っているにもかかわらず、幼い頃から受け続けた“指導”のせいでジャミルには決して逆らえなかった。
幼い頃から罵詈雑言を浴びせられたり剣で刺されたりと、精神面・肉体面の両方で虐げられてきたのだから無理もない。主人公のアラジンとアリババのおかげで自由になった後も、彼女はたびたび奴隷時代のトラウマに苦しめられていたほどである。
そんなジャミルだが、態度がデカいわりに剣術や学問が中途半端だったり、精霊“ジン”を前にしただけでチビってしまったりと、小物感がすごい。最終的には自分が大した人間ではないことを突きつけられ、幼児退行を起こしたあげく、酷使し続けた奴隷に裏切られて死んでいった。どこに出しても恥ずかしくない小悪党ぶりだ。
そもそも彼がダークサイドに堕ちたのは、確固たる信念があるわけでなく、壮絶な過去があるわけでもなく、幼い頃“先生”にそうなるように仕向けられたからだ。言ってしまえば、悪役としても中途半端な人物なのである。幼い頃のジャミルはキラキラとした目のむじゃきな子だったが、残酷なふるまいを強いる教育によって次第に歪んでいってしまった。
そういう意味では、ジャミルもまた被害者の1人といえるだろう……が、娯楽感覚で嬉々として罪なき人間を傷つけていた姿を思い出すと、情状酌量の余地なしと言わざるをえない。