■爽快感をコミカルかつダイレクトに表現した荒木飛呂彦(『ジョジョの奇妙な冒険』東方仗助)

 荒木飛呂彦氏も独特の比喩表現に定評のあるマンガ家で、長期連載している『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズはまさに比喩の宝庫。ブラックジョークのようなものから、思わず笑ってしまうものまでたくさんある。今回紹介する比喩は『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部で飛び出した。

 スタンド「ハイウェイ・スター」の使い手である噴上裕也は、バイク事故で負ったケガを回復するために東方仗助や岸辺露伴の養分を吸い取ろうとする。最初に露伴が捕らえられ、噴上が入院する病院まで追ってきた仗助の養分も吸い取った。

 養分を奪われ、干からびる寸前の状態の仗助の目の前で、3人の取り巻きの美女とイチャつく噴上。それにブチギレた仗助は、噴上の点滴を飲んで栄養補給する。

 これで復活した仗助のクレイジー・ダイヤモンドから逃れる術がなくなった噴上は、自分が重傷であることを盾にして情に訴えかける作戦に出る。すると仗助はクレイジー・ダイヤモンドの能力で一旦噴上のケガを治療。これで何の憂いもなくなった仗助は、容赦なく「ドラララ」ラッシュで噴上をぶちのめした。

 今までの苦労やストレスを一気に解消した仗助は、「スゲーッ爽やかな気分だぜ」「新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ~ッ」とそのときの気分を表現。どれだけ仗助がスッキリしたか、その爽快感がダイレクトに伝わってくる、とても分かりやすい比喩だった。


 名作と言われる作品には名言と呼ばれるような比喩表現も多く、作者の語彙力と言葉選びのセンスが光る。また、表現を用いるタイミングや状況、キャラに合った言い回しなども腕が問われるところだろう。

 今回紹介した板垣恵介氏、福本伸行氏、荒木飛呂彦氏らは、まさにマンガ内で言葉を操る名手だ。もちろん、ほかにも巧みな比喩を用いるマンガ家はたくさんいるので、そんな表現の部分に着目して読みこんでみるのも面白い。

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