人気漫画家による“秀逸すぎる比喩表現”3選 「ジョジョ・荒木飛呂彦」「刃牙・板垣恵介」「カイジ・福本伸行」名作を彩った“巧みなセリフ回し”の画像
『グラップラー刃牙』(秋田書店)第1巻・書影より

 人気マンガには魅力的なキャラが描かれるだけでなく、読者の心に響く金言のような名ゼリフも多い。そして、そんな名言と呼ばれるような言葉の中には、作中の状況をうまく例える“比喩表現”というものもある。

 表現の方法はマンガによって独特で、クスッと笑わせるものから、ズバッと鋭い切れ味で感心させられるものなどさまざまだ。そこで今回は筆者が個人的に秀逸だと感じた、巧みなマンガの比喩表現を厳選してご紹介したい。

■闘争に対する甘さを指摘した見事な比喩表現(『グラップラー刃牙』範馬勇次郎)

 まずは板垣恵介氏による『グラップラー刃牙』から。バキシリーズの中でもとくに人気のあるキャラが主人公・刃牙の父親であり、“地上最強の生物”などと呼ばれている範馬勇次郎だ。

 勇次郎の言葉は比喩を用いる場面が多く、その内容も戦い方と同じように豪快そのもの。とくにうまいと感じさせられた比喩表現が「上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想」というセリフである。これは最大トーナメント編の中で勇次郎が口にした言葉で、天内悠や息子の刃牙に向けて言い放った。

 勇次郎の“お墨つき”で最大トーナメントに出場した天内が、“武神”と称される稀代の空手家・独歩のヒザを破壊。これで決着がついたかと思いきや、独歩は戦うことをやめない。これに驚いた天内のほうが、大会関係者や観客に向かって「わたしの勝利を認めて下さい」と懇願する事態になった。そんな天内の様子を見ていた勇次郎は激怒。闘技場に乱入すると、天内を一方的にぶちのめす。

 決着が着いていないのにトドメも刺さず、敵に勝利を哀願した天内の行為を「腑抜けがッッッ」と一喝。さらに勇次郎は、天内や刃牙のような戦いに対する考え方を「上等な料理にハチミツをブチまけるがごとき思想」と、例えたのである。

 勇次郎の考える闘争とは、本能のままに相手の肉体を破壊するシンプルな行為。そこに愛や友情といった余計な感情を持ちこむ刃牙や天内ような考えは、到底受け入れられない“甘っちょろい思想”というわけだ。

 勇次郎による闘争とは「うまい料理を喰らう」ことと同義であり、それを台無しにする甘い考えは「ハチミツをブチまける」も同然の、料理を台無しにする行為と表現したのである。

 その勇次郎の戦いに関する思想の是非はともかく、まさに「言い得て妙」な比喩表現に思えた。

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