■アモスに真実を話した「優しいウソ」の存在を知ったあの日

 私はRPGにおいて、ウソをつかない実直で真面目な人間こそが勇者であるという考えがありました。

 なので、大学生になってとある方のゲーム実況動画で「いいえ」ループを見たとき、「ええ!? 断る人いるの!? 勇者なのに!?」と衝撃を受けました。そして同時に、「ええ!? “いいえ”って選んでも結局“はい”を選ぶまでループするの!?」と2度驚いたのをよく覚えています。

 そんな真面目さが勇者のあるべき姿だと信じて疑わなかった少年時代の私は、『ドラクエ6』のアモスイベントで悲しい事実を突きつけられます。

SFC版『ドラゴンクエスト6』プレイ画面より

 アモスというのはモンストルの町を救うために魔物と戦ってくれた英雄ですが、魔物に尻を噛まれた後遺症で夜な夜な魔物に変身してしまうようになっていました。

 本人にその自覚はないのですが、町人はアモスへの恩義があるため言い出せず、毎日見て見ぬふりを決め込んでいたのでした。

 そんな中、旅路の途中でモンストルに立ち寄った主人公たちは宿屋の店主の制止も聞かずに一泊してしまい、魔物になって夜の町で暴れるアモスの姿を見つけてしまうのでした。

 それを見た主人公がアモスのもとに訪れると、「どうしたんですか? 私の顔に何かついていますか?」と聞かれた後、「アモスに真実を伝えるかどうか」という選択肢が現れます。

SFC版『ドラゴンクエスト6』プレイ画面より

 ここでヤマグチ少年は、ウソをついてはいけない、勇者は隠しごとをしてはいけないという正義感にかられ、「わざわざ最初から“いいえ”にカーソルがあっている」にもかかわらず「はい」を押して、アモスに真実を伝えてしまいました。

 その後、アモスのため北の山にりせいのタネを取りに向かい、モンストルに帰りましたが、そこにアモスの姿はありませんでした。罪悪感からこの町にはいられないと悟ったアモスが町を去ってしまうのは、彼の性格を考えれば当然の選択だったでしょう。町人からも「なぜ伝えてしまったのか」と結構責められました。

 このとき、私は実直さだけが正義ではない。人の気持ちを想像することの大切さ。というのを痛いほど学びました。あそこで私はアモスに真実を伝えて正義感に酔っていたのでしょう。誰も救われないのに。

SFC版『ドラゴンクエスト6』プレイ画面より
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