■バッファローマンによって確立された『キン肉マン』の世界観

 バッファローマンは、いきなり、キン肉マンの従者・弟分であるミートくんをぶっ飛ばし、その体をバラバラし、そして7つに分けた体のパーツを、仲間に分け与え、「蘇らせたくば、7人の悪魔超人を倒して身体のパーツを取り戻せ」という衝撃的なミッションをぶち上げたのです。

 ロボットでもなんでもない、生きた人間(超人)、しかも少年読者にとっては感情移入しやすい子どもキャラでもあった「ミート君」を、アイテムのようにバラバラにしてしまった。

 なぜそんなことが可能なのか、仕組みは一切説明されませんが、読者はとんでもない衝撃を受けました。これ以上ないほど悪辣で、悪趣味で、不条理なこの行為。

 しかも、こんな悪虐で非情な敵なのに、ミサイルや光線ではなく、なぜか決着は超人オリンピック編から引き続いて「超人レスリング」のリングの上で行われるという世界観。

 プロレス漫画である『タイガーマスク』が、悪いレスラーをリングの上で倒すのは分かります。しかし、『キン肉マン』はヒーロー漫画です。キン肉マンたちは連載当初のように光線を撃ったりできるはずです。空を飛ぶことも、巨大化して七人の悪魔超人を踏み潰すことも可能かなのかもしれません。

 しかし、そういったヒーロー設定を一切捨て、相手が「悪魔」であっても「神」であっても、何が何でも「プロレスの四角いリングの上で勝敗をつける」という「世界観」がこのときに定まったのです。これは一つの、偉大な発明でした。

■異界から来る人智を超えた存在に生える角

 バッファローマンは、秩序ある大会競技であった「超人プロレス」の世界を、「ミートくんバラバラ事件」によってぶち壊し、新たなカオスの世界、異界の扉を開きました。

 以後、「悪魔騎士」「完璧超人」「完璧超人始祖」「超神」と、『キン肉マン』ワールドは現在にいたるまでに巨大な「キン肉マン神話世界(パンテオン)」を四角いリングの上で構築していくことになります。

 日本の民間伝承では、異界の存在である「鬼」は、鬼門(=丑寅・うしとら)の象徴として、「牛の角の生えた(+トラの毛皮を身に着けた)」姿で表されます。

 また、鬼ではありませんが、「なまはげ」のように、異世界から渡来して幸福をもたらす鬼のような角を持った神様や、牛頭という地獄の獄卒、スサノオと習合される牛頭天王のような牛角の神様もいます。

 異なる世界から来る、人智を超えた存在。大昔の人々は、その尋常ならざる力の象徴として、魁偉なる角を描いたのかもしれません。そういう意味では、『キン肉マン』の物語を前人未到のカオス世界に押し上げたバッファローマンに巨大な角があるのは、極めて自然なことに思えます。

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