1992年にエニックスから発売となったスーパーファミコン用RPG『ドラゴンクエスト5 天空の花嫁』。3世代に渡って繰り広げられる壮大な物語の中にはさまざまなキャラとの出会いや別れがありましたが、今回はラインハットの王子であるヘンリーについて、彼の生き様に思いを馳せたいと思います。
ヘンリーは、同作の主人公が味わった壮絶な人生の序章を語るうえでは欠かせない人物で、本作における「相棒」キャラといえるでしょう。まあ、実質の相棒は息子と娘、ひいてはピエールなんて声もあるかもしれませんが、われわれプレイヤーが知る由もないドレイ生活中の10年間を主人公とともに過ごした人物です。長すぎる月日をともに歩んだヘンリーは、間違いなく主人公の唯一無二の親友だと思います。
そんな相棒・ヘンリーですが、物語の途中でパーティから抜けたかと思えば、そのまま物語に大きく関わることはなくフェードアウトしてしまいます。
物語の中心にいたはずの彼がなぜ急に“蚊帳の外”に追いやられてしまったのか、最終盤に彼がパパスに成長した姿を見せる瞬間を心待ちにしていたのに、母親に会えた主人公にヘンリーだからこそかけられる言葉があったであろうというのに、なぜそれが叶わなかったのでしょうか……。
ということで今回は、私ヤマグチクエストがその理由について考えてみようと思います。
■ヘンリーが最終盤にいてほしい理由
そもそも私がなぜ、ヘンリーにフェードアウトしてほしくなかったのか。その理由は彼との出会いにあります。
ヘンリーと主人公の出会いは、幼少期のラインハット城内。当時、王子だったヘンリーのお守りを頼まれた主人公の父・パパスでしたが、「王子のそばにいたいのだが まいったことにキラわれてしまったらしい」と心を通わせることに苦戦していました。
そこで年の近い主人公が代わりにヘンリーのもとに向かいます。厳密にはその前に話すこともできますが、これがヘンリーと主人公の出会いといっていいでしょう。ここで交わされる、「子分のしるしを取ってこい」→「宝箱はからっぽだった」→「ヘンリーがいない!」というイベントは、『ドラクエ5』のなかでもかなり思い出深いシーンですよね。
その後、イスの下の隠し階段から下の階に隠れたヘンリーを見つけますが、その直後にヘンリーの継母とゲマの刺客によってヘンリーはさらわれてしまいます。
このあとのシーンがかなり重要だと思っているのですが、ヘンリーがさらわれてしまったことをパパスに伝えたとき、パパスは迷うことなくヘンリーの部屋のイスを調べて階段を見つけ出します。
パパスは嫌われていたはず。ヘンリーに距離を置かれていたはずなのに、なぜすぐに見つけることができたのでしょうか。
もしかしたらその隠し階段が大人から見ればバレバレだったのかもしれませんが、私はそこにパパスの愛情を感じました。主人公とヘンリーが出会う前に、ヘンリーの部屋でどんな会話があったのかは分かりませんが、パパスはつぶさにヘンリーを観察していたのでしょう。
そして先に向かったパパスを追って、主人公はさらわれたヘンリーを助けに東の洞窟(古代の遺跡)へと向かいます。
道中で追いついたパパスとともに、洞窟の最奥で牢獄に捕らえられているヘンリーを発見し、無理やり牢の扉をぶっ壊して無事に救出! ……かと思いきや、ヘンリーはここでも悪態をついてしまいます。
「どうせオレはお城に戻るつもりはないからな。」
「王位は弟がつぐ。オレはいないほうがいいんだ。」
私は初めてこのセリフを聞いたとき、ヘンリーが「いけすかないやつ」だった理由が手に取るように分かり、途端に親近感がわきました。
母親がいなくなったことで、弟・デールに王位を継がせたい継母のいやがらせや皮肉を日常的に聞かされるなど、自身の居場所がなくなったように感じていたのでしょう。彼自身は誰かにかまってほしくて、城のみんなにいたずらをしていましたが、たださみしかっただけだったんだなと。本当はそんなことないんだよと誰かに言ってほしかっただけなんだろうなと、とてもいじらしく感じました。
その言葉を聞いたパパスは、いじけるヘンリーの頬を叩き、「父上のお気持ちを考えたことはあるのか!」と叱責します。自分の息子の目の前で。
パパスはヘンリーとラインハット王に、自身と主人公を重ねていたのでしょう。
そして、その後は例のあの展開が待っています。
ヘンリーと主人公の目の前でゲマに殺されてしまうパパス。ヘンリーはきっと自身を責めたことでしょう。ゲマが悪いのはもちろんですが、やはりパパスに対する想いは多少なりともあったはずです。
そのヘンリーが、主人公の旅には同行しなかった。最後のパパスとマーサに出会えたあのエビルマウンテンでのイベントのときにも横にいなかった。なぜなんだ! というわけです。
伝わりましたでしょうか。やはりヘンリーにはあの場にいて、主人公に声を掛けてほしいし、パパスとの何かしらの会話もあってよかったと思いませんか。「立派になりましたな。ヘンリー王子……」なんて言葉があったら号泣ものです。