■それぞれ違う道を歩むことになった主人公とヘンリー
前置きが長くなりましたが、問題はここから。なぜ彼は物語の途中で離脱してしまったのか。それは、ヘンリーが相棒であり、「主人公との対比」もあったからではないでしょうか。
主人公もかなり苦難だらけの幼少期を過ごしていますが、ヘンリーの幼少期も相当なもの。両者とも王子として生まれ、幼いころに母親を亡くしていますし(マーサは生きてましたが)、ヘンリーは父親からの愛情を満足に受けることもできませんでした。
そして、前述の誘拐事件でできかけた友人の父親が目の前で殺されて、10年間のドレイ生活……。主人公と同じぐらい険しい幼少期を歩んでいますね。
10年の間にヘンリーの母国・ラインハットは悪政を働いてサンタローズを滅ぼしたり、ラインハットの国民は厳しい税の取り立てにあったりとボロボロの状況。それを目の当たりにしたヘンリーは、ラインハットを立て直すため国に残る決断をします。
ここから主人公とヘンリーの生き方は分かれていきました。「王にならず国に残って、家族と過ごすヘンリー」と、「王になってなお父親の遺言を頼りに母親を探す冒険に出て、さまざまな苦難にあう主人公」。
この2人の対比は「幸せ」のあり方を描くということ以上に、それでもマーサに会いたいという思い、魔物に侵食されつつある世界を守るために犠牲を承知で立ち向かう主人公の勇気を、より際立たせているのでないでしょうか。
言い方は悪いですが、同じような境遇だったヘンリーだからこそ「最高の引き立て役」にうってつけだったのではないかと思うのです。ポっと出の誰かの幸せな家庭を見ても、きっとあの感動は味わえなかったのではないでしょうか。
『ドラクエ5』の物語において、ヘンリーと一緒に過ごせる時間はプレイヤーにとってはわずかではありますが、物語全体においてはとても重大で大きな存在だったと私は思います。