■全人類に向けた少女の願い

 OVA『機動戦士ガンダムUC』のepisode7「虹の彼方に」では、ミネバ・ラオ・ザビが全人類に向けて演説を行うシーンがある。

 ラプラスの箱のもとへとたどり着いたバナージ・リンクスとミネバ。本物の「宇宙世紀憲章の石碑」に記された“秘密”の中身を知ったミネバは、それを守り続けたサイアム・ビストから「ミネバ殿下、あなたの口から真実を伝えていただきたい」「我らのたった一つの望みをこの宇宙世紀を生きる人々へ……あなた自身の言葉で」と託された。

 これに応じ、ミネバはビスト財団の放送システムを介して全人類に向けて演説を開始。「地球と宇宙、この世界に住まうすべての人たちへ」と語り出す。そして「私は、ミネバ・ラオ・ザビです」「このような形でみなさんに語りかける無礼を、どうかお許しください」と続け、自分がザビ家の血を継ぐ人間であることを明かした。

 その後、ミネバが語ったのは、本物の宇宙世紀憲章に記されていた“ある真実”。連邦政府の根幹を揺るがす重要事項を包み隠さずに告げながら、「この事実の公表をもって連邦を糾弾し、ジオン再興に結びつける意思は毛頭ありません」と明言した。

 最後は「この放送をお聞きの皆さん、どうかご自分の目で真実を見極めて下さい。そして、百年前の人たちがそうしたように、善意をもって次の百年に想いを馳せていただきたいのです」「私達の中に眠る、可能性という名の神を信じて……」と締めくくっている。

 このミネバの感動的なスピーチは多くの宇宙、地球圏の人々へと波及し、視聴者の心をも動かした。ジャーナリストとして活動するカイ・シデンが、この演説を聞きながらどこか満足そうな表情を浮かべていたのも印象的だ。

 何の打算もなく率直に真実を告げることで、人々の持つ善意の可能性を信じたミネバの見事な演説。もし一年戦争のソロモンで散った父ドズル・ザビが、我が娘の堂々たる姿を見ていたら、いったいどんな言葉をかけたのだろうか。


 今回ご紹介したギレン・ザビ役の銀河万丈氏、シャア・アズナブル役の池田秀一氏、ミネバ・ラオ・ザビ役の藤村歩氏を始め、名演説にはキャストの好演が欠かせない。このほかにもガンダム作品には何度も見たくなるような演説の場面がたくさん存在するので、ぜひ声優陣の演技にも注目してほしい。

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