■虐げられてきたスペースノイドを鼓舞した言葉

 宇宙世紀のガンダム作品における演説となれば、シャア・アズナブルの存在は外せない。『機動戦士Zガンダム』でクワトロ・バジーナを名乗っていた頃のシャアが自らの出自を明かしながら行ったダカールでの演説も捨てがたいが、やはり映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』でのコロニー「スウィートウォーター」における演説シーンは忘れられない。

 ネオ・ジオン総帥として壇上に上がったシャアは、戦争で生まれた宇宙難民に対して語りかけるように話し出す。連邦政府はスウィートウォーターのような急ごしらえで不安定なコロニーにスペースノイドを押しこみ、地球を解放しなかったことを指摘。

 さらに増長した地球連邦の内部は腐敗の一途をたどり、「ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった」と、多くの宇宙難民を生んだ歴史を冷静な口調で振り返る。

 そしてシャアは「ここに至って私は人類が今後、絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである」「それがアクシズを地球に落とす作戦の真の目的である」と、なおも地球に引きこもる人々の粛清を明言した。

 最後に「諸君、自らの道を拓くため、難民のための政治を手に入れるために、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい!」「そして私は、父ジオンのもとに召されるであろう」と、自らの血筋をバックボーンにスペースノイドの心情に訴えかけるような言葉で締めくくっている。

 シャアの本当のもくろみ、手段の是非はともかく、これまで虐げられてきたスペースノイドの観衆に刺さりそうな内容と言えるだろう。そしてシャア役の池田秀一氏の、序盤は淡々と語りかけるように始まり、次第に口調も熱を帯びていく演技がお見事。シャアの所作や声にどこか気品めいたものすら感じられた、一視聴者として心に残る演説シーンだった。

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