『ガンダム』シリーズの多くは国同士の戦争が描かれた作品だけあって、パイロットだけでなく為政者の側に立つリーダー的なキャラクターも数多く登場する。それぞれの立場に沿った政治的な内容を含んだスピーチを行うシーンも描写され、それが物語としてのリアリティを演出する重要なポイントになっていそうだ。
もちろん戦争中の演説が大半なので、それぞれの陣営の正当性を主張するものが多いが、内容はともかく一視聴者として強く印象に残ったシーンばかり。そこで今回は、個人的に気に入っている宇宙世紀における3つの演説シーンをピックアップしてご紹介したい。
■弟の国葬での力強い演説
初代『機動戦士ガンダム』における演説シーンでもっとも熱量を感じたのは、ギレン・ザビの演説だ。中でもアニメ第12話「ジオンの脅威」では、戦死したガルマ・ザビの国葬で演説するシーンが描かれている。
ギレンは「我々は一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか?」「否、始まりなのだ!」と国民に問いかけるようにガルマの復讐戦を示唆する。さらに「宇宙に住む我々が自由を要求して、何度連邦に踏みにじられたかを思い起こすがいい」「ジオン公国の掲げる人類ひとりひとりの自由のための戦いを神が見捨てるワケはない」と、自軍の正当性を説いた。
そして「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ!」と畳みかけると、バーで酒を飲みながら演説を聞いていたシャアが「坊やだからさ」とちゃちゃを入れるシーンはあまりにも有名だろう。
その最後にギレンが「国民よ、立て! 悲しみを怒りに変えて。立てよ国民!」「ジオンは諸君らの力を欲しているのだ、ジーク・ジオン!」と締めくくると、観衆からはシュプレヒコールが沸き上がっていた。
この内容からも分かる通り、最愛の息子を亡くして落ちこむ父親デギン・ソド・ザビと対照的に、ギレンは弟の死すら戦意高揚のためのプロパガンダに利用したのは明白。その演説に対する力の入れようはすさまじく、視聴者にも響くものだった。これは言うまでもなくギレン役を務めた声優・銀河万丈氏(放送当時は「田中崇」名義)の力強い熱演が輝いた場面でもあった。