■いわゆる“RPGのお約束”がない!だけど、こんなに面白い!

画像は『スクウェアのトム・ソーヤ』プレイ画面

 物語は、トムが仲間たちと宝探しに出かける夢をみたところから始まります。見たことも聞いたこともない土地で宝を探していたら、舟に乗せてもらえず仲間に置いていかれて……という悲しいプロローグです。そして、目が覚めたトムはその不思議な夢が気にかかり、冒険に出るというお話。なので大魔王もいないし、お姫様もいません。剣や魔法もありませんし、お金で装備やアイテムを購入するということもできません。

 こんなに設定に縛りが多いRPG、今から考えてもあまり聞いたことがありませんよね。しかし、本作の設定だからこそ、トムたちが常に身近で、「特別な存在」ではないからこそ、いろんなシーンやセリフがいちいち胸に刺さるんです。そこがなによりの魅力であり、原作と通ずる部分なのかなと思います。

画像は『スクウェアのトム・ソーヤ』プレイ画面

 ストーリーや世界観の素晴らしさもさることながら、本作の魅力はなんといっても斬新な試みの数々。

 まず、主人公・トムがまるで『がんばれゴエモン』のゴエモンのようにマップを歩きます。いわゆるドット絵ですがキャラクターたちの表情も豊富だし、物語を進めていくとトムの移動速度を上げることができるのですが、急な移動や曲がり角ではちょっとブレーキがかかることがあったりと、アクションもファミコンとは思えないほどこだわっています。

 敵に殴られたり、戦闘で逃げたりするときの情けない表情は本作の世界観の形成に一役買っていると思います。HPが0になると「死」や「気絶」ではなく「こて…」状態になり、ひっくり返って足だけが映っている状態になったりなど、こうしたコミカルな演出だけでも十分、「あ、このゲーム面白いな」と思わせてくれる魅力を感じていただけることでしょう。

画像は『スクウェアのトム・ソーヤ』プレイ画面

 そして、本作を語る上で欠かせないのが特徴的な戦闘システム。

 エンカウント時に敵キャラがはるか遠くにいる、という戦闘画面は当時、「俺たち、いがみ合う必要あるの……?」と悲しい気持ちにもなりました。

 攻撃を選ぶと、キャラクターが遠くにいる敵のもとまで走っていき殴る、敵もこちらに近づいてきて殴ったらもとの場所に戻るという、両者ともにヒットアンドアウェイを遵守して戦う斬新な戦闘でした。

画像は『スクウェアのトム・ソーヤ』プレイ画面

 ファミコンの容量の都合で、一度に多くのキャラを表示させて動かすというのが難しかったことが原因かと思いますが、川の上での戦闘でワニに向かってトムが水上を走ってぶん殴りにいったときはさすがに、「しかたないとはいえ、もっとあっただろ」と思いました。

 また、本作には経験値がなく、戦闘後に全員が少しずつ強くなっていくというシステムでした。

 キャラごとにパラメータの上限こそありますが、戦えば確実に強くなるので、ファミコンRPG特有のエンカウント率の高さもギリ耐えられました。さすがにほぼ通常攻撃を繰り返すだけの戦闘は、今の時代にはなかなか厳しいものがありますが、ストーリーや演出は面白いのでご容赦ください。(一応、必殺技という本作の世界観にそぐわない要素もありますが、成功条件がめちゃくちゃ厳しくほとんど失敗するので、使う機会は少ないでしょう)

 原作のキャラクターたちが多数登場しますが、雑魚敵はさすがに本作オリジナルで、そのデザインやネーミングセンスは非常に独特でした。

画像は『スクウェアのトム・ソーヤ』プレイ画面

 たとえば、あまりにも犬すぎる見た目の「いヌわし」や、じゃあ今までの敵はなんだったんだよとツッコみたくなる名前の「ただのくま」、蛾の男だから名前が「がまん」でこちらの攻撃をじっと「がまん」している目的不明の敵などなど、その世界観はかなり異質で今でも脳にこびりついています。戦闘が多く単調な戦闘すらも楽しめる工夫だったのかもしれませんね。

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