■ドラクエ5・サンチョのストーリーも見てみたい
そして、トルネコと同じような体形で、最終候補まで残ったと勝手に予想しているキャラがドラクエ5のサンチョです。
サンチョはパパスに仕えていた召使いで、ドラクエ5の主人公を「坊ちゃん」と呼ぶふとっちょな男。主人公がグランバニア王となったあとも「坊ちゃん」と呼びかけてしまうほど、深い愛情を持って主人公と接してくれた彼のことを嫌いな人間などいません。
そんなサンチョはスクルトやラリホー、さらにはメガンテといった魔法が使える点においてローグライクらしさはないものの、パパスと主人公を探していろんな情報を集め、グランバニア城を拠点にいろんなダンジョンを冒険する、という物語はとても興味深いではありませんか。
「結局、どこにも見当たらなかった……」と落ち込むサンチョの元に、きれいな女性を連れた坊ちゃんが帰ってくる、というラストシーンは想像しただけでも泣けてきます。
しかし、4人目の候補者であり、最終オーディション合格者であるトルネコとは大きな違いがあります。それは、「プレイヤーがサンチョの物語をよく知らない」ということです。そのほうがもしかしたら物語を作る余地があると言えなくもありませんが、トルネコと違い、絶対にパーティに入れなければいけない人物ではないので、冒険している姿がピンとこない人もいることでしょう。
その点、トルネコは違います。
まず彼は、戦士や魔法使いといった「現実世界でどうやって給料もらうんだ?」というような職業にはついておらず、特殊なことはほとんどできません。
ドラクエ4で私が一番好きなシナリオ「3章」の主人公である彼には妻と息子がおり、生計を立てるためにレイクナバという小さな村でアルバイトをしています。武器商人見習いです。
ワンピースでたとえるなら悪魔の実の能力者がうじゃうじゃ湧く中で、パチンコ1つで戦っていたウソップに我々が親近感を抱いてしまうのと同じように、剣と魔法の世界で生活のために武器屋で働くトルネコには、ドラクエ世界のプレイヤーキャラクターの中でも群を抜く愛嬌と哀愁を感じますよね。そこがいいんです。ローグライクは、モンスターに何度もやられることが前提となっているので、そうした失敗がよく似合う哀愁と愛嬌が必要なのです。
また、絶対脇役であろう彼が選ばれたのにはそんな愛嬌や哀愁だけでなく、「力はなくとも知恵で乗り越える」というイメージが非常に似合うということも理由の1つでしょう。
そして何より、たとえパンが地面に落ちていたものだとしても、たとえそれが腐っていても、なんとなくそれを食べている姿がしっくりくるのはトルネコしかいません。
ネネとポポロという存在も大きいでしょう。家族がいるというバックボーンのおかげで、自然と「トルネコ頑張れ!!」という気持ちに拍車がかかりますよね。守るものがあるということは、それだけで私たちに勇気をくれるのです。
庶民派であり、力に自信がなく、鎧を着ていなくても違和感がなく、パンをおいしそうに食べるキャラはトルネコしかいなかった、ということがお分かりいただけたかと思います。
こうした議論が行われたかどうかは定かではありませんが、ワナにハマってスタコラ逃げている様子がよく似合い、愛嬌があるトルネコだからこそ、本作は人気シリーズとなったのでしょう。
私は、もうすでに決まった事実をもとに考察していますが、ゼロから「トルネコを主人公にしよう!」と思いついたセンスには頭が下がります。ゲームを作る人って本当にすごいですね。