公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所が発表したデータによると、2020年の紙と電子を含むコミック市場は推計6126億円と、前年から23%増となる規模となった。
昨年から今年にかけてはコロナ禍による巣ごもり需要もあり、漫画についての話題が多く、吾峠呼世晴氏による漫画『鬼滅の刃』のコミックス全23巻の累計発行部数が今年2月に1億5000万部(電子含む)を突破。また4月21日には芥見下々氏の『呪術廻戦』の累計発行部数が、4500万部を突破したことも話題に。
少年漫画が飛ぶ鳥を落とす勢いで売れている中、女性向け漫画では「モラハラ」「DV」「ホス狂い」「借金」といった過激なワードが並ぶ漫画が人気となっているのをご存知だろうか。そこで今回は、夢物語ではない等身大のキャラから生き方が学べる2作を紹介したい。
■「ホストにハマる」…激変する日常
まず最初に紹介したいのは、をのひなお氏による漫画『明日、私は誰かのカノジョ』(小学館)。2019年5月からウェブコミック配信アプリ「サイコミ」で連載中の同作。単行本は紙・電子を合わせ累計100万部を超える人気で、レンタル彼女のアルバイトをする女性や、寂しさからパパ活をする女性、整形を繰り返す女性など、さまざまな女性たちの物語がオムニバス形式で描かれる。
コミックス5巻・6巻では、ホストクラブにハマったことで性産業に足を踏み入れることになった女子大生・萌によるエピソード「Knockin’ on Heaven’s Door」編が描かれ、先日『サイコミ』での連載が無事に最終回を迎え、更新後に読者から1万件以上のコメントが寄せられた。
萌は、たまに歌舞伎町のバーで飲む程度のサバサバした性格の女子大生。だがあるとき行きつけのバーで、日常的にホストクラブで大金を使う女の子「ゆあてゃ」と知り合い、試しにと2人でホストクラブに遊びに行ったことで歯車が狂っていく。
担当についたホスト・楓に「女」として扱われたことによって、ホストクラブ通いにはまっていく萌。金の工面のためにと夜の仕事を始め……ずるずると楓に入れ込んでいく姿が描かれるのだ。
萌は髪をおだんごにまとめ、いわゆるホスト遊びをしそうにない、大金なんてめったに使わなそうなタイプ。そんなホストとは真逆のイメージがある彼女だからこそ、「楓に会いたい」という気持ちだけで動くようになった姿がリアルで共感を呼ぶのだろう。楓との疑似恋愛によって、お金をどんどん使うようになってしまう萌の生活の劇的な変化を通して、読者であるわれわれも、何かきっかけ一つあれば変わってしまうような、不安定で危うい生活を送っているのだとあらためて認識させられるのだ。
また、新型コロナウイルス感染症が漫画の中にも影響を及ぼしており、ホストクラブの従業員たちがマスクを着用していたり、萌たちが感染対策に気を配ったりするシーンもある。彼女たちの日常が自分たちのそれと地続きであるかのように錯覚させる演出もまた、リアルさを増す要因だ。
現在『サイコミ』では、萌をホス狂いの沼へ引き込んだ「ゆあてゃ」の前日譚「Stairway to Heaven」がスタートし、そちらも更なる注目を集めている。