■「モラハラ」恋人「毒親」にもがく主人公

 続いて紹介するのはコナリミサト氏による漫画『凪のお暇』(秋田書店)。

 TBS系での黒木華主演の同名ドラマが2019年の夏クールに放送され人気となったが、原作漫画『凪のお暇』は現在もエレガンスイブで連載中。こちらもまた、ほんわかした絵柄とはギャップのある、主人公・凪の苦境が描かれた作品で、コミックスは今年1月時点で累計発行部数400万部を突破した人気作だ。

 凪は会社でもプライベートでも軽んじられるOLで、同僚と元カレの慎二が悪口を言っているのを目にし、過呼吸発作が出たことをきっかけに退職。都心の家も引き払い、立川へと心機一転引っ越しをする。しかし引っ越し先まで押しかけてくる慎二からはモラハラを受け続けていた。


 また、「足の怪我をした」という理由で地元に帰省させられ、客観的に母親を観察する中で、凪は「毒親」である凪の母も、地元の社会で生きていく上で摩耗し、うまく人とコミュニケーションをとれないことで苦しんでいることに気づく。

「子供の頃はただの酔っ払いだと 思ってた寄り合いのおじさんやおばさんの 端々から見えるパワーバランス おそらく地元でのこの立ち位置は ずっとこのままスライド式 ずっと」(『凪のお暇』コミックス第7巻より)


 自分自身を苦しめる「毒親」である母を、完全な悪として断罪できないことに凪は気づく。


「お母さんが 純度100の悪者だったらよかったのに」(同上)

 毒親である母からのモラハラを受けても、「悪者」であると白か黒で分けることができないことに気づいてしまった凪からは、親子関係や、それに伴う地元の人間関係の複雑さがうかがえる。こうしたキャラクターの現実的な苦しみは、読者である我々にも自らの行いを反省させ、自覚させるような機能がある。凪の人生を通して、自分たちの人間関係を振り返ってみると、新しい発見があるのではないだろうか。


『明日カノ』も『凪のお暇』も、「普通」のキャラクターが、リアルな人間関係の中で苦しみもがく姿を描いている。そのようにキャラクターたちが四苦八苦する姿を通して、自分たちの人生に役立てる知見を得ることができるかもしれない。

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