ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ソルファ(2016)』 ©Ki/oon Music

■反応がどう返ってくるかに、昔から軸足を置いていた

ーー物理的な密度がそれを物語っていますね(笑)。

中村 疲れた、もう飽きたって帰ってもらえたら嬉しいです。多分、それが正しい見方なんじゃないかなと。

ーーとはいえ、そこには先生のファンの方への感謝の意識もあるんですよね。

中村 僕はファンの方、一人ひとりが、何が好きかってわからないですよね。どの絵に思い入れがあるかもわからない。
何かをお返しをしたい旧友がいて、でも最近何が好きかわからないなら、僕は一個に絞るのではなく、あれもこれもあげると思うんです。その人が昔好きだったもの、今好きそうかなと想像するもの、僕が気に入っているもの等。それと同じですね。自分がやる展覧会は来た人が損したと思わないような、お礼の場にしたい。“入場料1000円ぐらいだったら、おそらくこの程度だろう”っていう物量から、はみ出したい。
実際、いろいろなクライアントの権利関係の中、1000円弱でこれだけ一緒に見れる展覧会は、そんなにないと思います。

ーーところで、ファンからの声でご自身に過去の絵に対して、再発見したことなどはありますか。

中村 SNSもそうですが、ファンの方の意見を聞いて思うのは、自分の絵の「売り」っていうのは、僕が意図していてる部分とは、良くも悪くもちょっとズレてるところにあるということは感じてます。僕の場合は、それがすごく勇気になります。
たとえば、女性像やノスタルジックな世界観とか、日本的な部分みたいなものが僕の作家性なのかなと20代の頃はぼんやりと考えていて。
特に海外のサイン会などで話を聞いてみると、「もちろんそこも好きだけど…」と。それ以上にモチーフの選び方や、配置の仕方・色の組み合わせ方など、本能に訴えかけている部分に驚いてくれている。なんていうか、コーラの味よりも炭酸の喉ごしが好きだった、みたいな(笑)。それは発見でしたね。
同時に、そういう本質的なものの見方をしてくれる方たちが僕の絵を好きでいてくれるなら、外側のスタイルは変えていっても大丈夫なんだ、と少しずつ変えてきました。 だからこそ、20年絵を続けられてるんじゃないのかなと思います。“へー、僕の良いとこって、そこだったんか!”ってわかるので、実際お会いして声を聞くっていうのはすごく勉強になるし、楽しいです。

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