岡本信彦「僕に課せられた使命は、こみ上げる涙に耐えること」/朗読劇『君の膵臓をたべたい』インタビュー(第1回)の画像
朗読劇『君の膵臓をたべたい』岡本信彦インタビュー(第1回)

今夏、最新作『腹を割ったら血が出るだけさ』を上梓した人気小説家・住野よる。彼のデビュー作『君の膵臓をたべたい』は、その印象的なタイトルと感動的なストーリーが大きな話題となり、2016年「本屋大賞」第2位など高く評価された作品だ。2017年に実写映画化、2018年に劇場アニメ化されるなど、様々なメディアミックスもされてきた。

そんなベストセラー小説が、満を持してこの冬、朗読劇として上演される。他人との関わりを極力避けている高校生の主人公「僕」を、岡本信彦/島﨑信長が。社交的で活発だが、実は膵臓の病気で余命わずかなクラスメイト・桜良を直田姫奈/悠木碧が、それぞれWキャストで演じる。

今回「WEB声優MEN」では、「僕」役の一人・岡本信彦に独占インタビューを敢行。これまで本作に触れる機会がなかったという岡本は、この切ない青春小説をどのように受け止めたのか。そのビビッドな感想から、まずは聞かせてもらった。(全3回)

 

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この美しい描写を朗読劇でどう描くのか

 

撮影/高橋しのの

――『君の膵臓をたべたい』は実写映画化、劇場アニメ化などされていますが、岡本さんは今回初めて本作に触れられたそうですね。原作小説をお読みになった感想はいかがでしたか。

 

元々タイトル自体は知っていたんですが、この朗読劇のお話をいただいたときに原作小説をいただいて、読んでみたら想像とは少し違った作品でした。タイトルから「膵臓の病気で、闘病していく中で命の尊さを知っていく話なのかな」と思ってはいたんです。もちろんその要素もありましたが、想像よりさらに残酷な展開が待っていて、感動するシーンがたくさんありました。いろんな愛が描かれている作品ですよね。恋愛だけでなく、人間愛や友達同士の親愛。愛というものの優しさと残酷さ。大事なものをいっぱい教えてくれる、そんな作品でした。

 

――その主人公「僕」を岡本さんが演じられるわけですが、現時点(10月下旬)ではどのように演じようとお考えですか。

 

今の段階ではまだ台本ができあがっていないので、まずはどんな台本になるのかなと。この長編を90分や120分に収めるのは大変だと思いますし、美しい描写がいっぱいあるじゃないですか。そこを朗読によるイメージで描くのか、何らかの演出を入れて見せるのか。

 

――本作は主人公の「僕」とヒロインの桜良を軸として進んでいきますが、基本的には他人と関わりたくない「僕」を桜良が引っ張りまわしていきますね。岡本さんはこの桜良というキャラクターについて、どんな印象をお持ちですか。

 

めちゃくちゃ輝いてるキャラクターですよね。友達もいっぱいいるし、どうして「僕」に興味を持ってくれたのか、不思議になるくらい。もちろんその理由は劇中で描かれますし、彼女が膵臓の病気を抱えていることが大きいのかもしれませんが、闘病中と知ったときの「僕」の反応が想像と違っていたから興味を持ってくれたとしたら、すごく頭のいい子だなと思います。言ってしまえば、人をコントロールできるくらい賢くて、悪女にもなれるような子。もし病気じゃなかったら、なかなかな性格になったかもしれませんね(笑)。

 

――確かに、彼女からは人を動かす才が感じられます(笑)。その桜良役を演じられる直田姫奈さんとは、本作が初共演になりますね。

 

まだお会いしたことがないので、未知数なんですよ。でも未知数だからこそ起こりうる、奇跡みたいな展開があるかなと。僕は事前にいろいろと想像してしまうほうなので、今回は“想像できない”というのが楽しいです。

 

 

触れたことがない方は、ぜひそのまま知らずに来て

 

撮影/高橋しのの

――「僕」を演じる上で、岡本さんが課題や挑戦になりそうだと感じているのは、どんなことでしょうか。

 

僕に課せられた使命は、泣くシーンじゃないところで泣かないことですね。最後を知ってしまっているので、伏線になるシーンで既に感動が押し寄せてきて、正直言うと泣きそうになっちゃうんです。でも泣かなきゃいけないのはずっと後なので、そのこみ上げる涙をどうやって止めようかなと。

 

――ストーリーを知っていると、冒頭の時点で泣けてしまいますよね。

 

「僕」を演じる身としては、「僕」に対する神様の仕打ちを感じてしまって、きついなって。誰もが“明日何が起こるかわからないから、今を大事にして楽しもう”ということは知っていると思いますが、この物語の結末を知っていると、その大切さや人と触れ合う尊さがより突き刺さるんです。「なんであのとき、ああしなかったんだろう」「こうしていたら、何かが変わったのかな」という後悔がずっとつきまとってしまって、「僕」がかわいそうで。そういう全部を知っている僕が「僕」を演じたとき、あらぬところで感情を出さないようにコントロールしなければいけないというのも含めて、容赦がない作品だなと思いますし、苦しいですね。

 

――それは生の舞台だからこそ発生してしまうご苦労ですね。

 

作品が素晴らしいからですよね。言葉と情景がスッと入ってきて、「幸せだったんだ」というのがわかってしまうのがきつい。作品の前半は特にそうです。桜良に振り回されているように見えて、「僕」自身もめちゃくちゃ楽しくて輝かしい時間をすごしていたんだと思えば思うほど、最後が効いてくるので。

 

――観客の方々には、読んでから観に来ていただきたいですか。それとも、結末を知らずに来ていただきたいですか。

 

映画化などもされている有名な作品ですから、きっとこれまでに触れたことがある人が多いんじゃないかと思います。でも、僕みたいに「タイトルしか知らないな」という方もいらっしゃると思うので、そういう方はより楽しめる作品じゃないでしょうか。「想像していたのと全然違う」と驚くでしょうし、同時に「なんて残酷な作品なんだ」と思うでしょうし。だから、もしまだ触れたことがないという方は、ぜひそのまま知らずに来ていただきたいです。

でもこの作品は、残酷なだけじゃないんですよね。神様から残酷な仕打ちというか試練を受けるけど、その中でささやかな幸せを感じたり、日常を歩んでいくキャラクターたちを見ていると、こういうことは現実世界でも必ず起こりうることなんだろうと。そしてそれは、観てくださった方々にとってもっとも、日々のエネルギーになりうるものじゃないかと思います。友達だったり、恋人だったり、家族だったり、周りにいる一人ひとりを大事にしよう、一緒にいられる空間と時間を大事にしようということを、この作品は学ばせてくれる気がします。

 

撮影/高橋しのの
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