内海さんから応援されているような気持ちになった
――また、音響監督・三間雅文さんへのインタビューシーンが素晴らしく、虚実の皮膜に触れているシーンだと思います。
榊原監督 インタビュアーの結花が感極まるシーンですね。冒頭で、幼少の彼女が「声優というのは『魔法使い』だと思っていた」と告白する場面がありますが、あれは結花を演じた、葵あずささん自身の言葉なんです。なので、彼女は竹田結花役であり、台本のあるお芝居もやってもらうのですが、三間さんとの会話では、それを越えたシーンになりました。彼女自体、インタビュアー役として出演してもらったわけですが、当時は声優を目指している一人として、いろんな方から生前の内海さんのお話を聞く中で、自分自身が内海さんから応援されているような気持ちになっていったそうなんです。
――それがあの涙に至るんですね。ご覧になる方には、本作のもう一人の主人公である、葵あずささんの存在感にもぜひ、注目していただきたいですよね。あらためて、いま声優業界の未来像について、お考えになっていることをお教えください。
内海 声優業界を支えてくださった多くのレジェンドが、ここ数年で亡くなっています。だから、まず声優の文化を語り継ぐという意味でもこの作品のような活動は必要だと思っていますね。ただ、そこは懐古主義ではなく、昔からの古き良きものを残していきながら、バトンをつなげていきたいとも思います。とはいえ、いまの声優には、声の芝居だけではない仕事も増えている。本当にマルチな才能が声優にも必要とされていると思うんです。僕の会社でいえば200名ほど役者がいますが、かたや武道館でライブをやったり、かたや朗読や芝居をやるわけです。歌や踊りも必要ですが、結局、芯はやはり声のお芝居であり、表現。それが「賢プロイズム」なんです。声優はその道のプロであるべき。なので、プロの声優さんには、声の表現力を備えてほしいです。
榊原監督 やはり「声優」さんは吹き替えやナレーション、アニメの声で何かを表現するプロフェッショナル。いま、それが社会に認められてきているし、リスペクトされてきていますよね。なので、そこを一番大事にすれば、声優の在りようが変わっても問題ないと思うし、いちファンとしては、逆にそこだけはブレないでほしいです。これは浪川(大輔)さんも仰っていたことですが、その地位を苦労して作ってこられた方たちへの感謝を忘れずに進めば、未来は明るいんじゃないかなと思います。
内海 そう思います。あと、僕自身、声優業界に生かされてきた実感があるので、業界にもっと貢献したいし、その発展に努めたいですね。コロナで大変ですが、若い方で声優になりたいと思う方は臆せずにチャレンジしてもらいたい。だからこそ、声優になりたい人は、この映画を絶対に観たほうがいいと思います(笑)。
――内海賢二さんのスピリットを引き継ぐお二人が、普段お仕事で大切にされていることを教えてください。
榊原監督 僕は「芸事に携わる人たちは、芸事に一生学び続けるんだ」ということをおっしゃった本作の羽佐間(道夫)さんの言葉が深く心に残っているんです。それを大切に今後もやっていきたいと思います。そしてこの映画を作って、より感じたのはドキュメントはありのままを写すのではなく、作り手の主観がそこにあるということ。今回で言えば、僕の気持ちを観ている人に届けたいということなんです。たとえば、観てくれた人たちに“それぞれの受け取り方をしてほしい…”と言うのが嫌なんですよね(笑)。そうではなく、“僕はこう考えました、みなさんはどうですか?”と言える作品を作れるように仕事をしていきたいです。
内海 僕は父から教わってきたことで言えば、人に対しての思いやりだとか、人を大事にするということに尽きると思います。会社として、多くのタレントも抱えていますし、僕自身、彼らと心を通い合わせるということに時間を割いていきたいんですよね。いまのデジタルの時代において、それが希薄になりがちかもしれないですが、その気持ちは絶やさないようにしていきたいです。
【PROFILE】
内海賢太郎 うつみ けんたろう
1974年生まれ、東京都出身。株式会社賢プロダクション代表取締役。父は声優の内海賢二、母は同じく声優の野村道子。
【PROFILE】
榊原有佑 さかきばら ゆうすけ
1986年生まれ、愛知県出身。2013年に『平穏な日々、奇蹟の陽』で映画初監督。フィクション・ドキュメンリー問わず創作を続ける。
<作品紹介>
『その声のあなたへ』
9月30日より全国公開中
監督:榊原有佑
出演:逢田梨香子 伊藤昌弘 内海賢太郎 かないみか 神谷 明 柴田秀勝 杉山里穂 谷山紀章 浪川大輔 野沢雅子 他
配給:ナカチカ、ティ・ジョイ
https://sonokoe.com/
@SonoKoe_0930
【INTRODUCTION】
1963年に声優デビューして以降、「北斗の拳」のラオウ役、「ドラゴンボール」での神龍役、「鋼の錬金術師」でのアレックス・ルイ・アームストロング役など長年に渡り活躍してきた内海賢二。1960年代に起きた第一次声優ブームの時代から2010年代まで活躍を続けた内海賢二は、ある世代にとっては兄弟、ある世代にとっては親のような存在として声優業界を牽引し、2013年に亡くなった際には葬儀に約700人の声優仲間らが駆けつけた。
『その声のあなたへ』は、現代のように“声優”という存在が一般化、人気化する以前から内海賢二とともに黎明期の声優業界を駆け抜けてきた仲間、そして彼と交流を深めてきた声優たちを通して知る声優・内海賢二と、今や人気職業として確固たる地位を築いた声優業界の軌跡を知るドキュメンタリーである。
©映画「その声のあなたへ」製作委員会