『北斗の拳』のラオウ、『Dr.スランプ』の則巻千兵衛、『ドラゴンボール』の神龍や、『鋼の錬金術師』アレックス・ルイ・アームストロングなど、数々の名作アニメで声優を務め、吹き替えやナレーターとしても半世紀に渡り活躍した、レジェンド声優・内海賢二。そのドキュメント映画『その声のあなたへ』がいよいよ公開。今回は、内海賢二が立ち上げた声優事務所・賢プロダクションの社長を務め、ご子息でもある内海賢太郎氏と本作監督の榊原有佑氏にお話をお聞きした。
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「初めて知る父の話がたくさんありました」(内海)
――2013年に逝去された声優・内海賢二さん。その人生とともに、声優やアニメの歴史をたどる『その声のあなたへ』が公開されます。劇中では、内海賢二さんはじめ、かつての仲間の方々の素晴らしい言葉がたくさんあり、ぜひお二人にお話を伺いたく思いました。そもそも本作の企画はどのように動き出したのでしょうか。
内海賢太郎(以下、内海) 5年くらい前に、この映画のおおもとの企画書を制作会社さんからいただいて、「内海賢二さんの映画を作りたいんです」と言われたんです。ただ僕と母は、父のことを描く映画への気恥ずかしさもあって、一回保留にしていただきました。けれど、そのあとも熱意あるアプローチをいただいて、実際に動き出しました。
榊原有佑監督(以下、榊原監督) 僕は最初にプロデューサーから企画の話をもらったんです。そもそもプロデューサーは、僕が声優さんやアニメ好きだと知っていて話をくれたとは思いますが、最初に企画を聞いたときから「是非やらせてください!」という気持ちでした。ただ、制作を進めていくにあたって、どういう心構えで作品に対峙すべきかは自問自答しましたね。
――実際、企画の始動から撮影まではどのように動いていかれたのですか。
榊原監督 19年にどういう内容の映画にすべきかを、賢太郎さんにご相談したのが最初だったと思います。最初の撮影は20年2月頃で、賢太郎さんと一緒にいろんな人のところに、カメラを持たずに内海賢二さんのお話を聞きに行ったんです。
内海 父は福岡出身なのですが、榊原監督から「内海賢二さんの九州時代の話を知っている方はいますか」と聞かれるまで、ほとんど九州にいた頃の父のことはおろか、親戚のことも知らなかったんです。そこから、山口県に父の兄がいることがわかり、まったく知らなかった幼少期の話など、初めて知る父の話がたくさんありました。
榊原監督 賢太郎さんは、お父さんのドキュメントというよりは、声優業界のためになるならという思いで臨んでくださいました。実際、僕自身も取材する中で内海賢二さんの魅力はもちろん、声優業界の歴史のようなものも紐解いていく必要性を感じたんです。それによって「役者・内海賢二」像も深まっていくと考えたし、それは記録として後世に残さないといけないものだと思いました。その覚悟と同時に、自分が幼少の頃から愛してきたアニメなどへの思いを、『その声のあなたへ』というラブレターのようなタイトルに込めて、作品を構成していきました。