理屈じゃないものをそのままに感じてほしい

 

――お二人が演じることで、キャラクターがこれほどまでに、肉体的なものを持って迫ってくることにも驚きます。

 

森山 自分ではわからないんですが、何かしらのフィジカルが生まれているとすれば、それは僕がアヴちゃんにレコーディングのときにすごく引っ張ってもらったからじゃないかなと思います。たとえば、歌舞伎や能でもそうですが、全く知識がなくて、初見の人だと、何をしゃべっているのかは、正直よくわからない。わからないけど、そこからエネルギーのようなものが立ち上がってくるのは感じる。そこを狙いたかったし、アヴちゃんの声はエネルギーそのものですから。

 

アヴちゃん 嬉しい!

 

森山 湯浅監督の絵の描き方だったり、言語では捉えきれない音や刺激……人間の動物的で直感的な部分にタッチしてくるような作品になっている気がします。そういう理屈じゃないものを、理屈じゃないまま感じてほしいです。

 

アヴちゃん ちょっと話がそれるかもしれないですけど、私は子どもの頃から「好きな音楽、何?」って聞かれるのが気持ち悪いんです。そもそも、みんなが“音楽が好き”なんて前提はどこにもない。ましてや、「音楽」は音を楽しむと書くけど、音ってもっと恐ろしいものというのが私の実感です。そこは好き嫌いではなく、迂闊に触れれば、ダメージを食らうほど手に負えないものが私にとっての音楽なんです。同時にその手に負えなさが、音楽の素晴らしさ。私は女王蜂は、その最たる存在だと思っています。それとこの作品は同じ香りがするし、手に負えないものの塊みたいなこの映画が世に放たれることが嬉しいです。

 

自分の中にもうひとりの人格が増えた

 

 

――本作への出演はご自身にとって、どんなものになりましたか。

 

森山 去年の3月に、この作品を収録していたとき、ちょうど僕は京都の清水寺でダンスパフォーマンスをさせてもらってもいたんです。東日本大震災から10年の年で、被災して亡くなった方への鎮魂という名目でのパフォーマンスでした。『犬王』の中にも清水寺が出てくるし、物語自体もそうですが、去年から僕の中で、彼岸と此岸というモチーフが、不思議と続いています。それが今後の僕自身に、どんなふうに繋がっていくんだろう、という想いがありますね。

 

アヴちゃん 私は自分からギャル成分を抜いたら犬王だな、という感じがあります(笑)。その気持ちを整理したくて、『犬姫』という曲を発作的に書いたし、自分にとっては大きな出会いでした。自分の中にもう一つの人格が増えたというか、単なるキャラクターとして割り切れない存在が生まれた気がしているくらい。この作品からもらった熱源は、これからも自分の中で深く残っていくと思うし、出演できて本当によかったです!

 

【PROFILE】

アヴちゃん (女王蜂)
Avu-Chan (Queen Bee)
バンド・女王蜂のボーカルを担当し、作詞、作曲を手掛ける。2011年にデビューし、今年結成13年を迎えた。今年2月には配信限定シングル「犬姫」をリリースし、3月には自身2度目の日本武道館単独公演「犬姫」を開催。また、アヴちゃんは舞台「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(19年)に出演するなど、活躍の場を広げている。

 

森山未來
Mirai Moriyama1984年生まれ、兵庫県出身。5歳から様々なジャンルのダンスを学び、15歳で本格的に舞台デビュー。「関係値から立ち上がる身体的表現」を求めて、領域横断的に国内外で活動を展開。待機作に、映画『i ai』(22年公開予定)がある。2022年4月より神戸市にArtisti in Residence KOBE(AiRK)を設立、運営に携わる。ポスト舞踏派。

 

【作品紹介】

『犬王』
監督:湯浅政明
原作:「平家物語 犬王の巻」(古川日出男著/河出文庫刊)
脚本:野木亜紀子
キャラクター原案:松本大洋
音楽:大友良英
声の出演:アヴちゃん(女王蜂) 森山未來 柄本 佑 津田健次郎 松重 豊
配給:アニプレックス、アスミック・エース

5月28日より全国公開
INUOH-anime.com

STORY
室町時代。猿楽の一座に生まれた異形の子、犬王(アヴちゃん)は周囲に疎まれ、その顔はひょうたんの面で隠されていた。犬王は平家の呪いで目が見えなくなった琵琶法師の少年・友魚(森山)と出会う。互いに歌と舞を交わし、一瞬にして二人だけの呼吸、二人だけの世界が生まれていく。お互いの才能を開花させた二人は、歌と踊りで人々を巻き込んでいく…!

 

写真/橋本龍二 聞き手/遠藤 薫
ヘア&メイク/[アヴちゃん]木村ミカ [森山]須賀元子 
スタイリング/[森山]杉山まゆみ
[衣裳協力]
[アヴちゃん]本人私物 [森山]ジャケット48,400円(yoshiokubo)、シャツ31,900円(COGNOMEN)、パンツ53,900円(TAAKK)、シューズ私物

 

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