主人公・潤平(CV.山下大輝)が伝説的なバレエダンサーと出会ったことから始まる『ダンス・ダンス・ダンスール』。そこで今回は、アニメ演出家の大谷肇がこの世界を志したきっかけからインタビューをスタート。いま作り手が感じているアニメーションの魅力と強みとは何か、そしてバレエをアニメーションで描くことに真っ向から挑んだ本作の大きな特徴とは。さらに盛り上がりを増す本作を楽しむヒントが詰まった、バレエ演出・大谷肇インタビュー最終回。(全3回)
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『もののけ姫』が僕にとってのビッグバン
――潤平にとってのブランコのような、大谷さんがアニメの世界を志すきっかけになった存在というと、どなたでしょうか。
宮﨑駿監督です。最初にアニメを志したのは高校生の頃でしたが、当時すごいブームだった『もののけ姫』を観たんです。あのときは本当に、ブランコの踊りを観たときの潤平とまったく同じ感覚でした。ものすごい衝撃、まさにビッグバンでしたね。
――宮﨑監督の傑作ですね。具体的には、『もののけ姫』のどこに衝撃を受けたのでしょう。
なんて言うんですかね……。本当に “小宇宙”という感じでした。その作品の中に、空気も虫も鳥も、生きものすべてがちゃんと宿っている。当時はここまで明確に言葉にできていませんでしたが、匂いや温度も感じられるくらいの“世界”がそこにあった、という感じですかね。
――物語の世界が、そこにまるごと息づいているという感覚でしょうか。
そうですね。
――やはり、ご自分でもそういう作品を作りたいと。
生き残っていくため、自分が一番輝けるスタイルを模索していくうちに、最初に目指していたものとは全然違うスタイルになってしまうことって、どんな世界でも往々にしてあると思うんです。僕もそうで、宮﨑監督のような王道の表現とはかなり違う、割と奇抜なほうに来ちゃったなと思いますね。
――では、いまはアニメーションのどんなところに魅了されていますか。
アニメって、フィルム的な表現と絵画的な表現の間みたいなところがあって、そのどちらも使える表現だと思うんです。つまり「いいとこ取り」ができる。もちろん取捨選択は難しいですが、その両方の表現をミックスできるというのが、アニメの大きな強みだと思います。特に日本は漫画というジャンルの成熟度が高くて、先人たちが培ってきた表現力が本当にすごい。今回のような漫画原作なら、そのエッセンスを使いつつ、映像のダイナミズムというか連続性のある表現を使って新しいものを生み出せる。
それからアニメは、脳内で作ったものを割とダイレクトに表現できるというのも魅力ですね。漫画と違って全編に色があり、音もある。そして映像と違って、実際に存在するものでなくても描けるので、イマジネーションをより発揮できる。そこが良さだし、自分はそこに特化したいという思いがありますね。だから実写に完全には寄せたくないし、かといって止め絵のオンパレードにもしたくない。その間で自分の立つべき場所を探りつつ、さまよっている感じです。
――原作ものですと小説原作という場合もありますが、漫画原作とはどんな違いを感じますか。
個人的に言うと、漫画原作はやっていて楽しい、小説原作はやり甲斐がある、という感じでしょうか。小説原作の場合は視覚的な部分をゼロから生み出して可視化しないといけないので、自分がやるべき範囲が広いし責任感も感じます。