最終的に力になるのは“人との繋がり”
――監督がお仕事をされる上で大切にされていることは何でしょうか。
僕はいつも70点取れたら合格だと思ってます。長く続けるには、「たまたま100点が出るときもある」くらいがいいと思うんですよね。そういう基準を持っておくと、70点に届かない仕事はしないほうがいい、という判断もできるようになります。さっきも話したように、アニメには色々な要因がありますが、そこに文句を言ってもしょうがない。例えば作画スタッフが足らないなら、ストーリーがいいとか声がいいとか、他の要素で引っ張り上げる工夫をして、70点を取りにいくしかないんです。
もう一つ意識しているのは、「締切はなるべく守って、次の人に考える時間をあげる」ということ。僕は脚本家なので、脚本が遅れると絵コンテが遅れ、絵コンテが遅れると作画が遅れ……と、後ろの人たちにどんどんシワ寄せが行ってしまうんです。それに脚本を仕上げても本読みでいろいろな意見を言われるので、一発で完成させようとは思わず、とりあえずたたき台として出す。テレビアニメは特にそうですね。
――普段から心掛けてインプットされていることなどはありますか?
この5年くらいはアウトプットばかりで(笑)。これまでのインプットでやっていたので、昨年の春頃から自分のクリエイティブな作業は休ませてもらったんです。何となくですが、一度空っぽにしてから「次は何を入れようか」と考える時間がほしいなと思って、あえてインプットもせずにのんびりしていました。最近はようやく次のインプットに目が行き始めたところです。
僕はI.Gに入って25年経ちましたが、これまでずっと詰め込んできたので、これからも働くことを考えると「一度空っぽにしないと続かないな」と思ったんですね。同じペースでやっていたら多分、58歳くらいで死ぬなと(笑)。さすがにもうちょっと生きていたいし、これからやる新しいことを見つけたい。この世界は市場に並んだらベテランも若手も一緒で、面白いかどうかだけで比べられる。そこでやっていくには、常に自分の中で新しいものを作り続けていかないとな、と思うんです。
――では最後に、本作を通して感じたことと、今後の展望などをお聞かせください。
劇場作品を久しぶりに作って、改めて「いろいろな人との繋がりでできていくものだな」と。こういう厳しい状況の中、昔の仲間や知っている人に助けてもらうことがあったので、自分自身が新しいところに向かっているときでも、人の繋がりが最終的に力になっていくんだなと思いました。この物語自体、アリスが周りに支えられていることに気付いていく作品なので、そういうことを感じ取れる機会になった作品だと思います。
そして空っぽになっている今、次に何をしようかと考えると、そろそろ自分の中から出てくるものを世に出していったほうがいいのかなと思ってます。もちろん原作ものの仕事が来たらやりますが、自分で話の種を作っていくということもやっていきたい。一番手近なところだと、やっぱり小説かな。自分一人で書けますから。そのうち、ペンネームで新人のフリをして、こっそりどこかで発表しているかもしれませんね(笑)。
PROFILE
藤咲淳一
茨城県出身。脚本家、小説家、ゲーム製作者、アニメーション監督。『BLOOD』シリーズの監督・シリーズ構成を務めるほか、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』、『ダイヤのA』、『ポケットモンスター サン&ムーン』では脚本を担当。『MARS RED』(21)『ガル学。~聖ガールズ・スクエア学院~』(20)ではシリーズ構成と脚本を務めた。
<作品情報>
劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』
2022年2月25日(金) 全国ロードショー
【STORY】
音楽によって解き明かされていく過去と、この世界の秘密―――
ピアノが鳴り響く音楽学校。聴く者全てを惹きつける見事な旋律を奏でるのは少し影のある少女、アリスだ。人と交わろうとしない彼女だが、好奇心の強いサニア、優しいロザリアと出会い、徐々に変化が訪れる。
空から一人の幼い女の子が落ちてくる。記憶を失くしていたが、黒の紳士がDeemo ということはなぜか知っていた。Deemo がつま弾くピアノの旋律に誘われるように、少女は「アリス」という自分の名前を思い出す。そこには、彼女を優しく見守るぬいぐるみのミライ、くるみ割り人形、フワフワと宙に浮く匂い袋がいた。
ピアノの音色で成長する木が天窓まで届けば元の世界に帰ることができるのではと考えたアリスたちは、城に隠された楽譜集めを始める。そこでアリスは表情を隠した仮面の少女と出会う。「あなたなんて、嫌い」と言う仮面の少女とアリスの関係は?
仲間たちとの楽譜集めの冒険。仮面の少女の心。そしてDeemo という存在の謎。時にアリスの頭をよぎる桜並木。
途中で止まる記憶の旋律――。
過去・現在・未来に大きな波紋を広げる音色が、次第にアリスの記憶の扉を開いていく。
【CAST】
竹達彩奈 丹生明里(日向坂46) / 鬼頭明里 佐倉綾音
濱田 岳 渡辺直美 イッセー尾形 松下洸平 / 山寺宏一
【STAFF】
原作:Rayark Inc.「DEEMO」
総監督:藤咲淳一
監督:松下周平
副監督:平峯義大
脚本:藤咲淳一、藤沢文翁
主題歌制作:梶浦由記
主題歌:Hinano「nocturne」(PONY CANYON)
製作・配給:ポニーキャニオン
【公式サイト】deemomovie.jp
【公式Twitter】@DeemoMovie
(C)Rayark Inc./「DEEMO THE MOVIE」製作委員会