世界的大ヒットゲームが原作の劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』公開記念リレーインタビューも、いよいよ最終回。最後は本作を支えた藤咲淳一総監督の思う“仕事論”を直撃! 様々な業界に飛び込み、現場で鍛えられながらキャリアを積んできた藤咲監督の言葉は、どんな仕事にも通じるのではないだろうか。(全3回)
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一生の仕事は若いうちに決めつけるものじゃない
――監督はずっと漫画家を目指していて、アニメーター科で勉強されていたと伺いましたが、今では絵だけではなく数多くの脚本も手掛けていらっしゃいます。その転機は何だったのでしょうか。
僕はアニメーターの勉強をした後にゲーム業界に入り、その後Production I.Gに入ってアニメの仕事をするようになったんですが、初めて小説を書いたのはI.Gに入ってからなんです。“押井塾”という、押井(守)さんがI.G内でやっていた企画の塾から『BLOOD THE LAST VAMPIRE』という映画が生まれたんですが、僕はそのゲーム版をやっていたんですよ。
――映画『BLOOD THE LAST VAMPIRE』は2000年に公開された短編映画で、後の『BLOOD+』『BLOOD-C』へと繋がる作品ですね。ゲーム版も2000年に発売されています。
僕は押井塾に参加していたし、ゲーム版を作っていて当然世界観を知っていたということで、いきなり「ノベライズをやれ」と言われたんです。それが初でしたね、小説を1冊書き上げたのは。それまで小説を書いたこともなかったので、どう書いたらいいかもわからなかったんですが、なんとか目が当てられる作品にはなったかなと。
シナリオもそんな感じでしたね。最初はゲームのシナリオだったんですが、メインのストーリーに加える分岐シナリオから書き始めて、その中で何となくシナリオの書き方を覚えていった。だからシナリオも小説も勉強したわけではなく、やらざるを得なかったというのが正確なところです(笑)。
――そんな風に「見て覚えろ」方式で育てられてきた監督ですが、今は大学などでシナリオについて教えていらっしゃるそうですね。ゲームやアニメーションの世界を目指している方々に、どんなことを伝えたいですか?
「とりあえず飛び込んでみるしかない」ってことでしょうか。自分一人でその仕事が合うか合わないかを悩んでいるくらいなら、やってみてから考えたほうがいいですよ。向いているならどう合わせていくかを考えればいいし、向いてなければ違う方向を探せばいい。一生の仕事って、そんな一瞬で決まるものじゃありませんから。僕は今年55歳ですが、ゲームのデザインやグラフィックからディレクターになり、途中で漫画も描き、アニメの脚本や演出をやり……。色々な仕事をやってきましたが、自分に向いていることはその都度変わりますよ。今は70歳くらいまで働かないといけない時代なんだから、一生の仕事を若いうちに決めるものじゃない。色々ぶつかってみて、自分で「やりたい!」と思えるものが見つかったとき、それに飛び込めばいいんじゃないかと思います。
――監督のお話を伺っていると、自分の信念を貫くばかりでなく、周囲の「やってみたら」という言葉に乗ってみるのもアリなのかなと思いました。
正直に言うと、僕の場合は来た仕事を断れないだけです(笑)。でも面白い体験ができるじゃないですか。失敗したとしても、お金はなくなるかもしれないけど、命まで取られることはない。失敗も次に活かせばいいので、失敗しようが成功しようが得るものはあるんです。
あと伝えたいのは、ものを作るというのは手を着けただけでは終われなくて、「それをどういう形にして世に出すか」も考えなきゃいけないということ。ものを作り上げて人に届けるまでが自分の仕事だと思っているので、その意識だけはずっと持っています。「完成させなければ意味がないぞ」と。
何かを作ろうとすると、きっといろいろな事情が出てくると思います。時間がない、お金がない、人がいない。それでも、その中でできるベストを尽くして、世に届ける。そこまで行って初めて“仕事”になるし、ダメだとしてもその経験は次に活かせる。だけどその経験は、何かしらの結果を出さなければ得られないので、どんな仕事も完成まで何とか漕ぎ着けられるようにと考えながら取り組んでます。