劇場版は正解ではなく、僕らなりの一つの答 

 

藤咲淳一監督

――そういった中で藤咲監督が一番大事にされた部分はどこでしたか?

 

やっぱりアリスの感情の部分でしょうか。17歳と幼い頃、二人のアリスが出てくるので、その二人をどういう風につないでいくのか。あとはアリスが“Deemo”の世界で経験してきたものですね。あの世界は暗くて怪しい場所だけど、最終的にそこにあったのは優しさだけだった……という感じになればいいなと。

 

――あの世界はアリスの夢のようでもありますし、心象世界のようでもありますね。

 

僕は最初、アリスの記憶の世界という認識で書いたんですよ。アリスが現実に向き合えなくなったとき、その時点での記憶が集約された世界。元々記憶というのは点で存在するものの集合体で、複数の情報が多角的に繋がって僕らが認識するような形を成すもの。それが混在しているのがあの世界だと思っていたので、そこに明確な方向性はないし、アリスがもっとも強く思っていたことが形になって残っている。それがピアノの音だった……となるといいなと捉えてました。
だけど、そこからさらに深い世界があるのかなって。“Deemo”がその中にいる特別な存在なのか、外からやってくる霊的な何かなのかはわかりませんが、“Deemo”という介在によって入ることができる特別な世界があるのだろう。そうして不思議な世界に入ることによって、自分の新しい夢が見えていく、という世界観なのかなと考えていました。

 

――本作は“Deemo”の世界を描きつつ、17歳に成長したアリスが音楽学校で過ごす様子も描かれます。そちらはどのように形づくられていったのでしょうか。

 

当然アリスが主人公になるわけですが、彼女はあまり語らない女の子で、内心がわからないキャラクターは感情移入しづらいんですね。そこでどうしようかと考えたとき、サニアとロザリアという同級生二人を狂言回し的な存在として入れて、彼女たちのアプローチで僕たちがアリスを取り巻く環境を知るという物語にしました。それに対して幼いアリスのパートでは、アリス自身が“Deemo”の世界の謎をどんどん見ていくという形で構成しているので、主人公は誰かと言うとあの世界すべてなのかもしれませんね。

 

――監督も原作のゲームをプレイされたと思いますが、どんな印象を受けられましたか?

 

僕はNintendo Switch版でプレイしたんですが、まず曲を最後までプレイさせてくれるんだなと。そしてその成功率が上がっていくことが木の成長につながり、アリスが真相に近付いていくという物語になっている。曲数もただ増やすんじゃなくて、それぞれがアリスの記憶のパーツのようになっているので、音楽とアリスの繋がりがきちんとあるところが面白いなと思いました。僕は2周目のエンディングまで見ましたが、最終的に明確な答を出していないのがさらに面白かったですね。だから「これはあえて想像に委ねるような作り方をしているんだろうな」と思いました。

 

――まさにその“余白”が、プレイヤーの想像をかき立てていますよね。劇場版アニメーションを作るということは、そこで一つの答を出すということになると思うのですが。

 

ヘビーユーザーの方は深くまで考察しているでしょうし、解釈の違いというのは絶対にあるだろうと思いました。だから劇場版が正解ということではなくて、あくまで僕らなりの答、「こういう形もあるんじゃないですか」というもの。“Deemo”とは何なのか、ということは原作サイドにも訊いてみたんですが、理屈で説明できるものではないということだったので(笑)。じゃあ僕らも音楽やゲームの世界から感じるものから答を出せばいいんだろうなと考えて、それを一つのストーリーとしてまとめていきました。

 

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PROFILE
藤咲淳一
茨城県出身。脚本家、小説家、ゲーム製作者、アニメーション監督。『BLOOD』シリーズの監督・シリーズ構成を務めるほか、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』、『ダイヤのA』、『ポケットモンスター サン&ムーン』では脚本を担当。『MARS RED』(21)『ガル学。~聖ガールズ・スクエア学院~』(20)ではシリーズ構成と脚本を務めた。

 

<作品情報>

 

(C)Rayark Inc./「DEEMO THE MOVIE」製作委員会

劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』
2022年2月25日(金) 全国ロードショー

 

【STORY】
音楽によって解き明かされていく過去と、この世界の秘密―――

ピアノが鳴り響く音楽学校。聴く者全てを惹きつける見事な旋律を奏でるのは少し影のある少女、アリスだ。人と交わろうとしない彼女だが、好奇心の強いサニア、優しいロザリアと出会い、徐々に変化が訪れる。

空から一人の幼い女の子が落ちてくる。記憶を失くしていたが、黒の紳士がDeemo ということはなぜか知っていた。Deemo がつま弾くピアノの旋律に誘われるように、少女は「アリス」という自分の名前を思い出す。そこには、彼女を優しく見守るぬいぐるみのミライ、くるみ割り人形、フワフワと宙に浮く匂い袋がいた。
ピアノの音色で成長する木が天窓まで届けば元の世界に帰ることができるのではと考えたアリスたちは、城に隠された楽譜集めを始める。そこでアリスは表情を隠した仮面の少女と出会う。「あなたなんて、嫌い」と言う仮面の少女とアリスの関係は?
仲間たちとの楽譜集めの冒険。仮面の少女の心。そしてDeemo という存在の謎。時にアリスの頭をよぎる桜並木。

途中で止まる記憶の旋律――。
過去・現在・未来に大きな波紋を広げる音色が、次第にアリスの記憶の扉を開いていく。

 

【CAST】
竹達彩奈 丹生明里(日向坂46) / 鬼頭明里 佐倉綾音
濱田 岳 渡辺直美 イッセー尾形 松下洸平 / 山寺宏一

 

【STAFF】
原作:Rayark Inc.「DEEMO」
総監督:藤咲淳一
監督:松下周平
副監督:平峯義大
脚本:藤咲淳一、藤沢文翁
主題歌制作:梶浦由記
主題歌:Hinano「nocturne」(PONY CANYON)
製作・配給:ポニーキャニオン

 

【公式サイト】deemomovie.jp


【公式Twitter】@DeemoMovie

 

(C)Rayark Inc./「DEEMO THE MOVIE」製作委員会

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