村瀬歩の“性別も年齢も感じさせない声”がほしかった【『グッバイ、ドン・グリーズ！』いしづかあつこ監督インタビュー③】

ただの線に人が共感して泣くという不思議な現象

――いしづか監督がアニメーションやアニメーション制作に魅了されている理由は、どんなところにありますか？

「アニメーションって、世界を作れるんですよ。頭の中で思い描いたものを、絵に描けさえすれば現実に一切縛られず表現できるというところが、非常に大きいですね。言ってしまえばアニメーションって、最初から最後まで嘘なんです。キャラクターが生きているとか生きていないと言うけど、これはただの絵でしかないし、ただの線でしかない。そこに命を感じさせるって、実はすごいことじゃないですか？　人が紙に描いた線を見て、それに他の人が感情移入して泣くという不思議な現象自体がアニメーションのすごいところだと思っています。
　制作の魅力も、まさにそこにあるのかなと。自分の頭の中で漠然と思い浮かべていたものを実際に絵に描き起こして、そこに声と音を乗せて物語にすると、人がそれを見て共感してくれる。これってとんでもないことで、例えば『昨日見た夢がすごく怖くてさ～』って人に話しても、『へえ、そうなんだ、怖いね』以上の感想って聞けないと思うんです（笑）。頭の中にしかないものをいくら口で説明しても、それほど共感はされないですよね。でもアニメにすると、それが伝わる。そこがすごいことだと思いますね」

――この『グッバイ、ドン・グリーズ！』という作品は、監督にとってどんな作品になりましたか？　また今後取り組んでみたいテーマなどはありますか？

「まだちょっと振り返るには早い気がするんですよね。作品ってお客さんに届いて初めて完成というところがあるので、これから公開されてお客さんにどういう形で届くのかを楽しみにしているところです。だからまだ挑戦の途中にいる感覚が強いかなと。でも『宇宙よりも遠い場所』を作りながら頭の中では『グッバイ、ドン・グリーズ！』を考え始めていたように、やっぱり何かを作るというのは自分が描きたいテーマを見直す機会にもなるんです。
だから今は、今まで考えたテーマの中から次はどんなことをやろうかと考える段階に入ってますね。今後もそうやって、自分で見つめ直したテーマや伝えたいテーマに一つひとつ向き合っていって、またオリジナルに挑戦できる機会があれば『やっぱりこれは描きたい！』というものに取り組んでいきたいなと思ってます」

――『宇宙よりも遠い場所』も『グッバイ、ドン・グリーズ！』も、友情をテーマにした作品だというお話でしたが。

「そうですね。でも『グッバイ、ドン・グリーズ！』は、友情……なのかな？　どちらかというと、一人の少年の世界が変わる瞬間を描こうとした物語、というほうが正確かもしれません。ちっぽけな人間と世界という哲学。ロウマ、トト、ドロップ、彼ら一人ひとりの人生と、世界の大きさ。それを描くために、友情物語というエンターテインメントの力を借りたという気がします。『宇宙よりも遠い場所』は友情を描くために女の子たちを南極へ行かせたので、実は逆のアプローチをしているんですよね。
　でも人生哲学を説教したいわけではなく（笑）、お客さんにはあくまで“素敵な友情物語”として受け止めていただきたいし、それがこちらの狙っているところでもあります。友情エンターテインメントを楽しんでいただきつつ、その裏に込めたメッセージのようなところが届くといいなと思ってはいますが、皆さんそれぞれ自由に感じ取っていただければ嬉しいですね」

＜作品情報＞

映画『グッバイ、ドン・グリーズ！』
2022年 2月18日(金)全国ロードショー

【STAFF＆CAST】
監督・脚本：いしづかあつこ
キャラクターデザイン：吉松孝博
出演：花江夏樹　梶 裕貴　村瀬 歩／花澤香菜／田村 淳（ロンドンブーツ1号2号）　指原莉乃
主題歌：[Alexandros] ／「Rock The World」（ユニバーサルJ / RX-RECORDS）
配給：KADOKAWA

【公式サイト】https://donglees.com/
【公式Twitter】@gb_donglees

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