■「そら!黒い涙が!!!!」

 当日、最終候補者と私たちでセリフの掛け合いをしてエリーの声をみんなで探した。そして投票を集計し、最後にエリー役として呼ばれた名前は「佐々木未来さん!」。

 佐々木さん! 佐々木さん! おめでとう! 嬉しいよね! 分かるよ、分かるよ、私も声優になりたかったからさ……! すっごくなりたかったからさ……!

 応募するのってすごい勇気のいることだよね。こんな大きな会場で決勝まで進んでさ、家族や友達は応援してくれたかな、声優になりたいなんて、堂々と周りに言えたかな、かなうワケないじゃんって笑われたかな、そんなんで生活できるワケないって、まともじゃないって決めつけられたかな。大丈夫よ、そんな奴らはね、夢みる勇気のない臆病者たちよ、気にすることないのよ、どうか自分に自信を持って、こんなに多くの人たちがこの短時間であなたに魅了されているのよ、こんなの、もうなんでもかないそうだって思わない? あぁ、希望に満ちて涙があふれそう……! 良かったね……本当におめでとう……! うう、泣かないで佐々木さん……! 佐々木さん……!

「そら!黒い涙が!!!!」

 メンバーの声にハッとした。これが涙……? 泣いているのは……私……?

 佐々木さんへの感情移入が過ぎて、私は佐々木さん以上に涙を流してしまった。とにかく濃いメイクこそ強さだと思っていた当時の私のアイラインやマスカラを一気に頬へ流すほどの涙。感動の瞬間は私の悪魔のような真っ黒い涙で幕を閉じた。

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